ぬるっと高校を卒業して、みんなが社会のハグルマになる秒読みのころ、僕はすべての面接にスベって無職だった。就職率100パーを目指していた母校の卒業アルバムの中、僕は存在しないことになっていた。
ヘラヘラしながら担任の青柳に「就職率100パーじゃなくなっちゃいましたね」と言うと、彼はヤギのような前髪を手でクシャっとして、くるっと背を向けた。
ゴールドコーストに行こうとしてた。
東京でもベガスでもなく、シドニーでもエアーズロックでもなく、あえてのゴールドコースト。無知をこねて高温の窯で素焼きしたような僕は、オーストラリアというナゾの大陸に憧れて、ゴールドがコーストする街で、イチから人生を立て直したいと本気で願っていた。
しかし、ガチモンのパチモンはパスポートを作れない。飛行機に乗るにはパスポートが必要で、なんだか面倒くさいなぁという、ぬへっとした理由でゴールドコーストの夢は冷めた。
人間をなめて、夢も目標もなく時間を食い潰してきたなれの果てが、今ここにいる。歩んだ道を振りかえれば、砂と砂利だけの土地に乾いた風がふいている。
階段をのぼると息切れし、膝の痛みをおそれて、中腰で手すりにすがるおっさんがいる。感情をおそれてコソコソと身を隠すおっさんがいる。夜中に口から胃液をタレ流して目をさますおっさんがいる。
過ぎ去った時間と、失われた若さに気付き、もう手遅れだと思ったときには、なにもかもが終わっていた。
僕という名のしかばね。