安部公房さんの『砂の女』を読みました。
こちら、初版は1962年(昭和37年)とかなり古く、現在2016年ですから、実に54年まえに書かれた本になります。
また、作者の安部公房さんは、東京大学の医学部卒ということで、これは、僕にはちょっと難易度、高すぎたんじゃないかとか思ったのですが、いざ、ページを開いてみると、サクサクと読み進み、2時間半ほどで読了してしまいました。
とても面白く、ひさびさにページを繰る手が止まらない、貴重な読書体験を満喫しました。ぐふふ。
あらすじ
おおまかなあらすじは、昆虫採集が趣味の学校の先生が、珍しい昆虫を探しにへんぴな土地へ行き、行方不明になってしまいます。家族から捜索願いを出されますが、ゆくえはいっこうに知れず、とうとう死んでしまったことになるのですが、実は囚われの身になって生きていたのです。
物語は、その行方不明になった真相と顛末を、主人公の視点から語られています。
感想
ここから、ネタバレありの感想です。まず、物語りの序盤、行方不明になってから、主人公の視点に移るまでの流れが美しいです。
まるで全体を俯瞰する地図のように、物語りの骨子を明確に読みとれるのは、読者にとっては、とても嬉しい。親切な安倍さんが一瞬で好きになりました。
そこから、砂の家に閉じ込められ、脱出を試みる主人公にとても共感しました。ところどころ精神的な稚さを見せつつも、なんとか問題を解決していこうという姿勢は見習うべきものがありました。
ひとつ納得がいかないのが、主人公が「砂の女」とコトを済ませるのに、なぜあんに時間がかかったのか、ということです。
一応、後半にそれらしい理由は書かれていましたが、ふたりきりの状況からして、僕には到底耐えられなかったでしょう。
30代女性、愛想がよく、生活感があり、ちょっと誘っている感じ。それなのに、お前はなにをモタモタしているんだ!という、怒りすら覚えてしまいました。
僕ならば、兎にも角にも、コトをすませ(一週間ほど)それからやっと賢者になり、置かれた状況と対話しはじめます。
いや、人それぞれなのでしょうけど、僕はもう、読みながら「早く!早く!」と祈るばかりでした。
あと、個人的に気にいったところは、物語の終盤に出てくる、主人公が霧に向かって対話するシーンです。
まあ、落ち着いて聞きなさい。
高所恐怖症、先端恐怖症、麻薬中毒、ヒステリー、殺人狂、梅毒、白痴……
各一パーセントとして、合計二十パーセント……
この調子で異常なケースを、あと八十例、列挙できれば……
むろん、出来るに決まっているが……
人間は百パーセント、異常だということが、統計的に証明できたことになる。
(改行は僕がいれました)
ちょっと引用短めですが、つまり、異常だのなんだのと深く考えず、軟禁されて砂を掻き出す生活も、それに疑いを持たなければ、有意義なのではないのか、というサジェストです。
僕たちの生活は、サラリーマや、フリーランス、南国暮らし、果ては、宗教法人による生活保護費の管理など、とても多様化しています。
「砂の女」には、その構造について、疑問を投げかけるとともに、人間の幸福という命題について、考えさせられる内容でした。
ちょっと浅いかもですが、なによりストーリーが抜群に面白いので、ぜひ読んでみてください。
オススメです。