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このまえ、行きつけの美容室に髪切りにいってきた。詳しい日時とか場所は伏せるけど、うちらの街では、オシャレで、ちょっと高めのお店なんだよ。
予約してても10分、ヘタしたら30分くらい待たされる。だけど、カットしてくれる女の子が可愛いから、もう5年くらいずっと通ってる。
その日も、相変わらず忙しそうだったけど、タイミングが良かったせいか、5分も待たないうちに通された。ラッキー。
そして、いつもの子に、いつも通りにカットしてもらった。美容室って、なんか落ち着くよね。だから、たいてい寝てしまう。滞在時間の7割はうつらうつらしてしまって、起きたら記憶がない、なんてこともしばしば。
シャンプー
カットがおわって、シャンプー台に移った。今日は新しい子だった。何度か見かけたことはあったけど、シャンプーは初めてだったんだよね。
僕はシャンプー台に横になると、もう熟睡モード。顔にお葬式みたいな白い紙を乗せられて、ぐっすり寝込んでいた。
たいてい「ここはどこ?」って感じで目覚める。そして、あったかいタオルで顔を拭くのが、この美容室のしきたりなんだよ。
僕はこれが気に入ってるんだ。サッパリするから。
「どうぞー」
女の子が、いつも通りにタオルを持ってきてくれた。僕はあったかいタオルを受け取って、顔に当てたんだけど、その瞬間、「ウッ」となった。
このタオル、めっちゃクサいやん…。
僕はもともと匂いに敏感なんだけど、明らかにクサかった。なんだろう。例えるなら納豆が腐ったような、いや、納豆はもともと腐ってるから、そうじゃなくて、発酵臭っていうのかな。
ともかく、人智を超えたクサさってあるんだよ。
だけど、その場では、胸が苦しくて、なんのアクションも起こせなかった。そっとタオルを顔から離して、おでことほっぺをチョンチョンと当たって、スグに返した。一刻も早く手放したかったんだよ。
だけど、顔にはイヤな臭いがベットリと張り付いてしまって、2ちゃんまとめサイトの広告ばりにベットリついちゃってるんだよ。ホントにもう、泣きたかった。
いま考えれば、「乾いたタオルありますか」とかって、変えてもらえばよかった。だけど、もうそんな余裕もなくて、早く乾いてって心で念じてた。
さいわいお店の中は、しっかり空調が効いてて乾燥してたから、スグに乾いたけど。それまでの数分間はもう、恐ろしく苦痛だった。
タオルが発酵した原因
可能性として考えられるのは次の3つかな。
- 雑巾と取り違えた
- 使用済みだった
- 嫌がらせ
もっとも確率が高いのは、取り違えだと思う。シャンプー台を拭いたりするタオルだったのかもしれない。だけど、ケモノ臭さも感じたんだよ。他の誰かが使用済みだったのかな。まさか猫のおしっこを拭いたやつじゃないよね…。それくらい強烈だった。
嫌がらせではないと思う。僕は良いお客さんのハズなんだ。確かに、心のうちには欲望が渦巻いてるけど、表面上は紳士の振る舞いをしてるからね。
しかし、何だったんだ。あんなの初めてだよ。シャンプーしてくれた子の、タオルに対する意識が低かったのかな。なんかポワンとした子だったから。
もしも、次も、汚タオルだったら、絶対にチェンジしてもらおう。それから、臭いを確かめてから顔に当てるようにしなくちゃ。
普段はかなり用心深い僕だけど、安全すぎる日本で平和ボケしてしまったんだろうか。
みんなも、気をつけた方がいいよ。
お会計
その後は、髪を乾かしてもらって、ちょっと整えてカットは無事におわった。そのころには、臭いもすっかり消えて、気分も持ち直していた。
お会計を済ませて、帰り際に、新しいメガネを褒めてくれた。「とっても良く似合ってる、カッコいい」って言われて、照れてしまった。それほどでもないのに。
僕も「じゃあ、また来ます」なんて、かしこまって答えたりして、可愛いってホント正義だよね。
女の子は何歳になってもみんな可愛い。