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こんちは。ライターのチルドです。
何もかもが洗練され尽くしてしまった現代、変わることなく原初の息吹を残すものなどあるのでしょうか。
人類はその誕生の瞬間からあらゆる素材を噛み砕き、比類なき消化器官をもって幾多の栄養素を体内へと取り込んできました。
そして食物たちは長い旅路の果てに体外へと放出されていきます。それはやがて母なる大海へと流れ落ち、またあらたな生命の誕生へと繋がっていくのです。
生命の鼓動と共に日々繰り返される神秘的な営み。排泄。それは時として真紅の薔薇のように赤く、またある時は新緑に芽吹く若葉のように鮮やかなグリーンの顔をのぞかせます。便にはひとつとして同じカラーは存在しないのです。
常に変化し続けるレインボーシット。今回はそんな美しき排泄物についてご紹介します。
【■】ゴーストホワイト[ghostwhite]
意外性ならばゴーストホワイトです。陶器のキャンヴァス(便器)に撒き散る白便は、そのイメージとは裏腹に病のサインでもあります。配色のベースとなる胆汁が欠乏、もしくは滞っている可能性があるでしょう。早めの通院をおすすめします。また胃の検査でバリウムを飲むと白便が排泄される事例もあります。こちらは便器に張り付いて流れないこともありますので棒で押し流してください。
【■】ライトピンク [lightpink]
ピンクはいつの時代も乙女の心をつかんで離しません。しかし招かれざるピンクもこの世には存在します。それは鮮血のしるしかもしれませんね。人の体内は、なぜこうも容易く出血してしまうのでしょう。なるべく早めの通院をおすすめします。
【■】クリムゾン[crimson]
真紅はアヴァンチュールな誘惑を纏っています。目が覚めるような便器に横たわる赤。それはまるでレッドカーペットの上を歩くようなトキメキを感じさせてくれるでしょう。まれに肛門に近い箇所からの出血の可能性もあります。できるだけ早めの通院をおすすめします。
【■】フォレストグリーン[forestgreen]
インテリアの基本はグリーン。オフィスのおもてなしに緑の配置は欠かせません。それが体内から生まれたとしたら信じられるでしょうか。これを奇跡と呼ばずになんと呼ぶのでしょう。しかし奇跡に代償はつきもの。酸化したビルビリンは病の証かもしれません。早めの通院をおすすめします。
【■】ブラック[black]
腸内で活性化した悪玉菌により、力強い黒は生まれます。便器のホワイトと対照的なブラックは、まるで光と影を表現した抽象画のような鮮やかなコントラストを表現します。ごくまれに胃や食道からの出血の可能性もあります。早めの精密検査をおすすめします。またイカ墨や黒ゴマを食したときも上品な黒に染まることがあります。
便と向き合う
5種類のカラーをご紹介しましたが、あなたはいくつの便と出会うことができたでしょうか。
ひとは生涯のうちにおよそ2万6千回の排泄を行うとされています。生命を語るとき、排泄はその傍らでやさしく微笑んでいる良妻賢母と言えるのではないでしょうか。
ときに硬く、ときに柔らかく、そしてまたあるときは留まることを知らない激流のように流れる排泄の快楽。あの日、ナイアガラフォールズを彷彿とさせる落下に耐え忍びトイレに駆け込んだプラットフォーム。あの時、あの場所で、あの感動をもう一度…。
排泄される便たちは、私達の人生にさまざまなドラマをもたらしてくれます。消化して落下した固形物(あるいは液体)を見下ろすとき、私達はその背景のコンテクストに想いを馳せることでしょう。
たしかな物など何もないこの世界。もしかしたら便だけは真実を語ることができる最後の道しるべなのかもしれませんね。今こそ声無き声に耳を傾け、便を見つめ直すときではないでしょうか。
ご観覧ありがとうございました。