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散るろぐ

千載具眼の徒を待つ

時給700円。カット野菜工場の思い出

仕事

カット野菜工場で働いていたときの思い出を話そうかな。

「カット野菜」というのは、文字通り野菜を切ったり粉々にしたりする作業のことで、切った野菜は、スーパーとか病院、コンビニからファーストフードのチェーン店まで、幅広く使われてるよ。最近の飲食店は、店内で野菜を刻んだりしないところも多い。


仕事内容

  • コンテナ洗浄

カット野菜工場で働くと、たいてい最初は野菜を入れるコンテナの洗浄をしてる。180cmくらいのプラスチック容器にホースで水と薬品をかけながら巨大ブラシでこする。

作業が単調なうえに誰とも会話できないからこれで辞めていく人も多い。気を抜くとホースの水が長靴に入って靴下がぐちょぐちょになる。そんな日は帰るまでブルーな気分。

  • タマネギみじん切り

コンテナ洗浄の試練を乗り越えると、晴れて野菜のカット部屋に配属される。僕がデビューしたには女性ばかりのところ(おばちゃん)。

平均年齢60歳という部分に目をつぶればハーレムだった。良い人ばっかりだった。うまく説明できないけど、この仕事を選ぶ女性はどこか純粋。男は他に行く場所がなくて来てるからダメっぽい。

作業場の中は、強烈な薬品とタマネギ臭がする。クサイなんて生易しいもんじゃなくて、臭いが全身をスッポリと包まれて目と鼻がやられてしまう。ありえない空気のなかでみな黙々とタマネギの芽をとっている。

タマネギは、100キロ単位で機械で粉砕される。

  • キャベツのカット

1トンのキャベツを粉砕する。ステンレスの作業台で、流れ作業でキャベツを4等分にして芯をナナメに落とす。

ダンッダンッザッザッと包丁で解体していく。タマネギのような刺激臭は無いけれど、包丁の柄がこすれて親指の皮がズルむける。

そのあと、こっちも機械で千切りにする。


キャベツは基本的に国産だけど、たまに鉄コン(鉄製の巨大コンテナ)にはいった皮がドロドロに溶けたのもあった。もしかすると外国産かな。

溶けたキャベツを嗅いだことがある?とんでもない匂いだよ。それを水槽の中に投入して、ドロドロが無くなるまでこすりあげる。みんな修行僧のような表情になって素手でこすりあげる。手袋をすると水が中に入ってしまう。

ちなみに納品先は素材にこだわる某ファーストフードチェーン店。

  • ゴボウの皮むき

続いてゴボウ。これも水を張った水槽の中に投入。泥を落としてピーラーで皮をむく。ピーラーというのはU字形のプラスチックにカミソリの刃がついた皮むき器。

国産のゴボウってこんなに太かったかな?と思って、素朴な疑問を班長に尋ねると「機械で細くするから元の太さは分からない」と。

うーむ。僕は無言でゴボウの皮をむく作業にもどる。

  • ニンジンの乱切り

専用の機械に投入したニンジンは、筒の中をクルクルと回りながら器用に薄皮がむける。それを手作業で短冊におろしていく。

機械への投入は1人。これはとても名誉な仕事とされて、ワンランク上の優越感がえられる。哀しきヒエラルキーの終着駅。

これで作業は終了。

ほかの部屋ではタマネギやキャベツをさらに細く粉砕したり、ゴボウやニンジンをスライスして袋詰にしていた。

  • 平等の理想型

はじめのうちは、強烈な臭いに悩まされるけど、馴れてしまえば大丈夫。何より考える必要がないから楽だよ。

でも、いろいろ考えてしまうタイプの人は徐々に弱ってしまう。

子供が成長するように、大人も作業に慣れて早くなるんだけど、だいたいずっと、時給は同じ。

悲しいよね。


1年後

僕が入ってから、何人が辞めていったかな。最低でも100は下らないかも。もう麻痺して気にもならなくなっている。

タマネギのエキスも体に染みついて、鍋に飛び込めば素晴らしいスープが出来るって感じ。

僕はもう二度とあそこには戻らないだろうね。あの強烈なタマネギの臭いは、今でも心の中に染みついている。