ぼーっとパソコンを眺めていたら、どこかで音がしていてた。
なんだろうと思って、ディスプレイに顔を近づけてみたけど、どうもちがう。でも、たしかなメロディが聞こえたから、もしやと思ってかばんをゴソゴソすると、鳴らないはずの僕の電話が、蚊の鳴くような着信音をくり返している。
僕はおもむろにSHARPのガラケーをパカッとして電話に出た。
「もすもす?」
「あのう、九州電力の者ですが、こちら、ちるろぐさんのお電話でよろしいでしょうか?」
九電?
電力会社がなんの用?とか思いつつも、ヘンな勧誘じゃなかったので、ホっとして答えた。
「ハイ。ワタシですが、なにかありました?」
「あ、ご本人様でしたか。いえ、あのう、電力の検針をしておりまして、ここ2ヶ月、使用量ゼロでしたので、ご引っ越しされたのかと」
「ああ、なるほど。いえ、たまには帰ってるんですよ。でも、その部屋にほとんど居ないんです」
「あ、別にお住まいがあると」
「そう、そうですね、そんな感じです」
「でしたらー、いったん電力を止めたほうが、基本料金などかからずにすみますよ」
「えーと、基本料ないんです。」
「は?」
「いや、電力自由化のなんとかで、基本料金かからないタイプがあるんですよ。ですので、電気使わなかったら料金かからないです」
「あ、そうですか、そんなのがあるんですか」
「そうなんです。なので、大丈夫ですので、はい、はい、はーい、どうもー、失礼しまぁす」
カチャ。
ふー、やれやれ。
たまに電話が鳴ったら、これだよ。んー、なんだろう。孤独死の安否確認したりするのかな。
ともかく、妙な電話じゃなくてよかった。
じっさいのところ、本当に帰ってなくて、月に2,3回、郵便物とか、異状がないか確認するだけで、カラッポの部屋の家賃を毎月はらってる。
もったいないと思うけど、住所変更すると、免許証、携帯、カード、その他もろもろ全部変えないといけないから、面倒なんだよね。
僕の人生、シンプルなつもりだったけど、いつのまにか、背負ってる。
住所を定めて、電話をもって、背番号つけられて。
安全で、健康保険もあって、なに不自由ない暮らしのはずなのに、なぜか窮屈だ。