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今日はひさしぶりに残業なしで定時に帰れた。そんなとき、妙にウキウキした気分になるのは、僕だけだろうか。
世の中には、残業どころか、在宅で時間に縛られない仕事をしている人たちもいるらしい。
おまけに稼ぎは、50万円とか、100万円って話しだ。連中から見れば、僕の、家畜に毛が生えたような生き様は、さぞかし滑稽に映るだろう。
そんなことを考えながら、帰り道を歩いているとセブンの横を通りかかった。相変わらず繁盛している、コンビニの野郎は、今日も大勢の客を誘い込んでいる。
欲しいものなんて無かったけど、僕はセブンへ入った。無性に金を使いたくなったんだ。日が暮れるまえにこの店に来たのは久しぶりだった。
今日は定時に帰れた。たったそれだけでウキウキした気分になっている。幸せな気分だ。安い幸せだ。ドンキホーテのレジ横に、ブラックサンダーと一緒に並んでいるような幸せだ。
僕は平積みになったマガジンを一冊手に取ると、大急ぎでベイビーステップを読んだ。はじめの一歩も見たかったけど、そこまで行ったらタイムオーバーだ。あくまで内容を確認しただけ、という体裁は崩したくない。なに、どうせ鷹村は3発くらいのパンチしか打たないだろう。あっという間にまた来週だ。焦るこたあない。
ベイビーステップを秒速で読み終えて、マガジンを平積みに戻した。表紙がシワにならないように、キチンと角も揃えて元通りにしておいた。
それから、ようやくスイーツの棚にたどり着いた。今日はこれを書くために、文字を打ち始めたんだ。どんだけ回り道すりゃ気が済むんだ。
結局、残業するヤツには、残業しなけりゃならない理由があるんだよ。回り道してるんだ。仕事も、人生も、生れたときからなにもかも。
プリンで180円は高いだろう。だからと言って、100円のとろりんシューにだけは逃げたくねえ。同じ理由でエクレアもアウトだ。しかし、今日のエクレアは、チョコレートの表面が湿っているな。
水滴がポツポツと浮いて、それを照明が鮮やかに輝かせて。なにを妄想を掻き立ててやがるんだ。どこにでもあるエクレアの分際で、生意気なんだよ。さっさと廃棄されろ。
んで、けっきょく手に取ったのがコイツだった。
プライスカードにナナコポイントが20ポイント付くって書いてあった。つまり、実質20円引きだ。ぉぉ、ズッシリとした手応え。重い、重いぞ。
開封の儀
家に帰ってさっそく食べてみた。何度も言うが、今日は定時で帰れた。僕は、定時で帰宅してコンビニでスイーツを買い、靴下を脱いでこれを食べるのだ。ククク。
上の写真との違いが判別可能だろうか。そう。フタを開けたのだ。
よく見てほしい。内容物がヤバい。容器の出口のキワキワまでせり上がって、今にも溢れそうだ。
もしも不用意に開封したとしたら、5分の1は、ぶちまけた自信がある。
たまたま座って、テーブルの上という安定した状態だったのが幸いした。立ったまま、容器を固定しないで開封したら、盛大にこぼしていただろう。
それだけは気をつけてくれ。
ともかく、実食だ。これだけドッサリの甘みは久しぶりだからな。同梱のプラッチックスプーンですくって食べてみた。
なんだ。
なんだ。
なんだこの、ちがうコレジャナイ感は。ふつふつと沸き起こってくる。なんだこれは。
あえて例えるなら、ドロリッチの失敗作だろうか。いや、ゼリーだと思うからおかしくなる。コーヒー風味の寒天だと思えよバカ。
液糖の中にコーヒー寒天をぶち込んであるって考えれば、すべて解決する。
そうなんだよ。決してマズくはないが、それ以下でも、それ以上でもない。
今日は定時に帰れた。
それだけでいい。