ワールド・ベースボール・クラシックが開催されていますね。日本代表選手のみなさん、そして小久保代表監督、ならびにフィジカルスタッフのみな様、本当にお疲れさまです。
しかし僕は、今回のWBCには、それほどの興味を抱くことが出来ませんでした。それは、ダルビッシュ有、田中将大、イチローなど、メジャーで活躍している選手が軒並み辞退しているからです。唯一、期待していた、大谷翔平選手も、直前で離脱してしまい、その興味は一気に薄くなってしまったのです。
そこへ彗星のように現れたのが、我が家の69歳女性でした。常日ごろ、ペナントレースの結果にすら疎い彼女が、なぜか、今回のWBCには多大な関心を寄せているのです。
僕は、ファミリースタジアムど真ん中世代なので、野球に関しては、一般的なレベルで詳しいです。インフィールドフライの意味を理解しています。ところが、69歳女性は、タッチアップの意味すら怪しいのです。そんな彼女が、WBCに限っては、大いに観戦し、エールを送っているではないですか。ツツゴウ、マキタ、ウチカワなど、覚えたての英語のように固有名詞をつぶやき、声を枯らして応援しているのです。
僕は隣で、その様子を、つぶさに観察していました。団塊ど真ん中の昭和23年生まれですから、年代としては、プロ野球に関心を持つのは不思議ではありません。うちの父親も、昭和23年生まれで、夕方になると、よくビールを片手にテレビ観戦していたものです。
しかし、69歳女性は、せいぜい、イチロー、松井、長嶋監督くらいしか知らないハズなのです。普段のプロ野球も見ているワケではないので、知っているのは、ニュースで紹介される選手の名前くらいでしょう。
確かに、侍ジャパンは、良い試合をしています。出場している選手も、質の高いプレーを見せてくれていますし、メディアにとっても、格好のニュースネタですから、躍起になって報道するのも頷けます。しかし僕としては、ダルビッシュや将大、翔平が出ていないWBCは、それほどじゃないのです。
ところが、そんな中途半端なサムライを、 69歳女性 熱心に応援しているのです。勝った!勝った!と、まるで赤子のように手を叩いてよろこんでいるのです。
しかし、僕は、その様子を冷めた目で見てしまいます。どうせ、WBCが終わったら、プロ野球などには、まったくの無関心になるのが、目に見えているからです。
WBCの国別対抗戦というシステムが、彼女の深層心理に潜む、ある種のナショナリズムを呼び覚ますのでしょうか。オランダ、イスラエルなど、外国を打ち負かすニッポンに、カタルシスを感じているのでしょうか。
だとしたら、それは恐ろしいことです。大日本帝国復活じゃないですか。我が家の69歳女性が、再びアジアの覇権を求めて、欧米列強に戦いを挑もうとしているのです。
そして僕は、極度の不安におちいり、69歳女性の肩を揺さぶり、問いただしたのです。君はまた悲惨な過去を繰り返そうとしているのか、と。
するとどうでしょう。
彼女「個人的に好きな選手はいるのよ。でも、プロ野球って長ったらしいのよ」
僕「…つまり、WBCは短期決戦だからいいと?」
彼女「そうそう」
なんと言うことだろう。日本全国の心配はまったくの誤解で、69歳女性は、WBCをフェスティバル的に楽しみ、短期決戦を面白がっていただけなのだ。
ツツゴー、サカモト、ワクイ。
キラ星のように輝くサムライJAPAN、ありがとう。今宵も、69歳女性に、勝利を届けてください。そして彼女に笑顔を…。
がんばれニッポン。