ちるろぐ

ここが僕のアナザースカイ

あの子は星野源が好きだと言った

美容院ジプシーを知ってるかな。髪をどこでカットしても満足できなくて、いつも違う美容院へ行く人のことだよ。

あいにく僕は、そんな放浪者じゃない。一度、ここと決めたら、さながら乙女のように、一途な気持ちで通い続けるんだよ。

火曜日は春の嵐で、桜の花が散ってしまったから、
いつもより早目に、美容院の予約を入れた。ちょっと長めにカットしたせいで、髪が風に舞ってしまうんだよ。



僕がいつもカットしてもらうのは、お気に入りのN美さん。美容師歴15年のベテランなんだ。米国の女優ルーシー・リューを、ちょっと幼くした感じのオリエンタルビューティー。

沖縄好きの彼女は、まだ独身で、彼氏はいないらしい。僕は、密かな恋心を抱きつつも、彼女が幸せな人生を送ってくれることを、心から祈ってる。




「好きな芸能人っていますか?」

僕は、なんであんな質問を、彼女にしてしまったんだろう。魔が差したのかな。

「星野源です。でも、チケット取れなくてコンサート行けなかったんですよー」

「そ、そうなんだ」

「そうなんですよ。チルドさんは、好きな芸能人、いるんですか?」

「ぼ、僕は…とくに…」

「アハ。いないんですねー」

ちょっと待ってほしい。

本当は、僕が好きなのは、フィギュアスケートの本田真凛と、卓球の伊藤美誠なんだよ。おでこ美人が僕の中でブームになっている。

しかし、それを忘れてしまうほど、僕はショックを受けていた。僕の苦手なものは、ピーマンとマッシュルーム、それから星野源というくらい、星野源が苦手なんだよ。

それなのに、大好きなルーシー・リューが、星野源のファンだと言う。よりによって、なんで星野源なんだ…。僕はひどいショックに打ちのめされて、激しく動揺してしまった。



聞けば、星野源は大人気で、チケットも入手困難らしい。なので彼女は、友人に頼んでチケットをとってもらったそうだ。

ところが、星野源のチケットは、とった本人しか使えない。転売防止のため、買った本人しか使えないシステムなのだ。

そして友人は、仕事の都合で行けなくて、チケットはあわれ、紙切れになってしまったとさ。

まったく興味ないけれど…。

こうゆうとき、人はどうふる舞うべきなんだろう。自分の好きな人が、自分の苦手なものを好きだと言ったら、どうすればいいんだろう。正直に、僕は嫌いです、と言うのだろうか。

そんなことを考えているうちに、僕の髪はサクサクと切られて、スッキリと短くなっていた。どことなく星野源っぽいのは気のせいだろうか。