お母さんに、寝るまえに読んでもらった絵本って、どんなのだった?
僕は、芋むしが出てくるのなんだけど、内容は忘れてしまった。ただ、その話が、大のお気にいりで、いつもねだってたのは覚えてる。
そんなふうに、ストーリーは覚えてなくても、心に残る物語って、あるよね。
今日は、僕の心に刻まれた、お気にいりのストーリーを伝えたい。まるで童話のような、それでいてシニカルな、実話に基づくストーリー。
 ̄ ̄集合住宅のポスト__
僕が中学生のとき、おなじクラスに「島ちゃん」って呼んでたクラスメイトがいたんだよね。
島ちゃんの家は、海岸沿いの市営団地で、1棟に100世帯も入るのに、それが20棟も建っているような、巨大なマンモス団地だった。
そこで生まれ育った島ちゃんは、生粋の団地っ子で、団地のすべてを知り尽くした、団地のスペシャリストだった。
こっそり屋上へあがれるハシゴ、小さい子供だけが通れる下水管、絶対に見つからない用途不明の小部屋。
島ちゃんは、団地のなかを好奇心のおもむくまま探検して、団地の敷地内の、あらゆる秘密を知っていた。
ところが、そんな好奇心が裏目に出る、とんでもない事件が起こってしまう。
それが、カギがなくてもドアが開けられる方法。
島ちゃんは、屋上の南京錠も針金で開けてしまっていたから、今度は、自分の家のドアも研究していて、ついに開ける方法を見つけてしまった。
それは、玄関のドアについているポストの部分を、外側からレンチで外して、隙間から手を伸ばすと、ドアのロックを解錠できるって方法だった。
それを発見した島ちゃんは、近所の仲のいい子たちに、やり方をレクチャーしてたんだけど、それが、めぐりめぐって、島ちゃんのご両親に伝わってしまう。
それで、島ちゃんは、ご両親にこっぴどく怒られてしまったとさ、という顛末。
団地のドアは、全部おなじ作りだから、この方法を使えば、どの家にもカギなしで入れる、いわゆる重大なセキュリティホール。
大人からすると、もしも、この手口で、どこかの部屋に泥棒が入ったとして、その方法を、自分の家の子供がみんなに教えてた、なんてことになったら、大変なことになる。
だから、島ちゃんは怒られたんだけど、僕は、この話が大好きなんだよね。
ドアの鍵を開けるとき、市営団地に用事で訪ねたとき。ふと思い出す、島ちゃんの面影。
島ちゃん、元気にやってるかな。
今、どこで、なにをしてるんだろう。