見よ。この累々たる遺骸の山を。
傷つき倒れたすべてのはてな女子たちよ。僕はその気高く、そして可憐な姿を忘れない。ある者は村を去り、ある者は発狂し、またある者は魂が抜けたことにも気づかず見えない敵と戦っている。嗚呼、はてな女子。
持たざる者
20XX年、どこからともなく現れた持たざる者、ミニマリストの女王は、逃げまどうはてな女子を、また一人、また一人と屠っていった。その書物は焼き払われ、衣類は引き裂かれ、香水は叩き割られた。そして蛮族の女王は勝利の雄叫びをあげた。
円形闘技場(アフィリウム)
人々は巨大な建築物の中心へ列をなして歩いていく。大衆が押し寄せた円形闘技場(アフィリウム)は異常な興奮に包まれていた。舞台上には、さまざまなカテゴリ衣装を身に纏ったアフィリエイターが達が、大剣アフィディウスを操り次々とキーワードを切り刻んでいる。
すると、ひとりの屈強なアフィリエイターが、檻から放たれた猛獣ビックワードの突進を軽々を受け止めた。そして、その首すじにアフィディウスの刀身を叩き込む。2回、3回、4回、5回…
悲鳴をあげて後ずさるビックワード。すかさず間合いを殺すアフィリエイター。ズタズタに切り裂かれたロングテールを弱々しく丸め、哀しみにうるむ瞳で力なく崩れ落ちるビックワード。
熱狂する観衆は総立ちになり、親指を立てる。そして「ピーブイ!、ピーブイ!」の大合唱が始まる。アフィリエイターはカテゴリ衣装をひるがえして観衆に向かって吠えた。
「アイ・アム・バズッ!」
そして、手にした大剣を振り上げると、水平に持ちかえ猛獣へ突進する。その切先はビックワードの眉間へ、まるでバターナイフのように吸い込まれていった。
眉間を貫通したアフィディウス引き抜き、不敵に笑うアフィリエイター。そしてビックワードの腹を十文字に切り裂き、血まみれの内臓を引きずり出して頭上に掲げるアフィリエイター。
またも大衆は総立ちとなり歓声を上げる。幾万の叫びがアフィリウムの高い壁面を揺らす。
「参考になります!!」
「勉強になります!!」
「おめでとうございます!!」
その歓声は、はてな村の外、あるいは地下にまで響き渡った。
黒衣の男〜ブラックハット
はてな村の遥か遠く、あるいは地下深くに眠っていた黒衣の男は目を覚ました。地上がやけに騒がしい…。またホワイトハットの連中がライフハックを詠唱し始めたのか?
だが、それとも違うらしい。様子が変だ。
黒衣の男は、手にしたリンゴ型の水晶球に目を落とした。そこには、アフィリウムに押しかけた養分(人間)と、ビックワードを羽交い締めにして歯をむき出したアフィリエイター、そして持たざる者と半裸になったはてな女子が映し出されていた。
はてな女子?
ミニマリスト?
アフィリウム?
そろそろ俺の出番だな。つぶやくと黒衣の男はおもむろに立ち上がった。そして観音開きの8Lデュアルディスプレイに手をかけ、身体を折りたたんで深くねじり込んでいった。
不都合な真実
アフィリウムの中心に、突如として現れた黒衣の男に民衆は釘付けになった。アフィリエイターは剣を下ろし、持たざる者は沈黙し、そしてはてな女子はすがるような目をした。
静まりかえる闘技場。
先刻まで興奮に酔いしれていた民衆は、黒衣の男の次のアクションを固唾を飲んで見守っていた。
男は深くかぶったフードをあげた。そしてアフィリエイター、持たざる者、素っ裸になったはてな女子の順に目を向けた。そして黒衣を脱ぎ捨てた。
現れたのは、一見するとどこにでもいるような青年だった。上質なシルクの落ち着いた色合いのスーツに身を包み、穏やかな目をしている。
青年はアフィリウムを一瞥して、内ポケットに手を入れると、クレジットカードの束を取り出した。そして軽くシャッフルすると、手のひらで角を整えて右手に持ち替えた。
するとカードが消えた。
消えたと思ったカードは、男の頭上から降りそそぎ、右手から左手へ、左手からまた右手へと、大きな弧を描き、まるで生き物のようにパラパラと流れていく。そして青年が「コンバージョン」とつぶやくと、今度はカードが次々に札束へと変わっていった。
アフィリウムは驚愕のため息に包まれた。青年の足元には、みるみるうちに札束が積み上がっていく。金色のコインは有価証券に変わり青年のポケットへ納まっていく。大衆はまた目を見開いた。
「どうやったらできると思う?」
青年はひとりのはてな女子を指差して聞いた。
「…わかりません」
はてな女子は弱々しく言った。青年はうつむき首を振ると、次々にはてな女子たちを指差し、同じ質問を繰り返した。
「カードに細工してるんじゃないですか」
「あなた、本当はよくできた3D画像ね?」
「魔術…あなた魔術師よ!」
青年はそれを聞くと、天を仰ぎ、それから深いため息をついた。
「全部ハズレだ。いいかい。答えはひとつだ」
青年はそこで一息つくと、目を細め眉間にシワを寄せて、まるで罪を告白する罪人ように言った。
「訓練だよ。10万時間やれば誰だって出来る。ブログだって同じ。やることは2つだけだ」
・毎日更新する
・読みたくなる記事をアップする
その言葉を聞いたはてな女子は、ひとり残らず号泣し、ある者は自らの舌を噛み、またあるものは絶叫しながら走り去り、そしてまたある者はほぼ日手帳を取り出しメモをとりはじめた。
「メモすることなんてひとつもない」
そう言い残すと青年は現れたときと同じように、忽然と姿を消してしまった。
黒衣の男が明かした錬金術。その正体は血のにじむような訓練だった。そこにはチープなトリックなど、何ひとつ存在しなかったのだ。
エピローグ
村のそこかしこから、ポキ、ポキ、と乾いた音が聞こえる。ナナカマドの木の上にいる僕は、その音に耳を澄ます。
聞こえるかい。心の折れる音だよ。
僕は大きな木の幹に語りかける。
はてな村は浄化されたんだ。もう手斧なんて飛んでこない。はてな女子が生け贄になって綺麗になったんだよ。
厄介なブックマーカーは消えた。うまくいった。新しいはてなの勝利だよ。
僕はもうノスタルジーなんかに浸らない。
上場したはてなに、もう女子は必要ないんだ。だけど安心して。はてな女子の骨は僕が拾う。そして、丁重に弔ってあげよう。