僕にとっての、靴に関するもっとも古い記憶は、先の尖った靴だった。見るからに硬そうで鋭く尖ったその靴は、まるでカブトムシの背中みたいにツヤツヤして、お金の匂いを強くまとっていた。僕はリーガルショップのショーウインドに鼻をくっつけて、飽きることなくそれを眺めていた。
小学生の僕はズックを履いていた。紐じゃなくマジックテープではけるそれは、サイズが大きすぎてブカブカだった。僕はその靴を小学生の6年間ずっとはいていた。理由は様々だけど、ひとつだけ言えるのは、貧しい家庭に育つと、自分がなぜ貧しいのか知る術がないってことだ。
中学生になり、バスケットボール部に入った僕は、初めて靴らしい靴を手に入れた。それがバスケットシューズだった。
新品のバスケットシューズは、カカトに衝撃を吸収する新素材を埋め込まれていて、夢のように軽い履き心地だった。ハイカットデザインが足首をやさしく包み、幾何学模様のソールがキュキュッと小気味よい音を鳴らした。僕はそのシューズで飽きることなく体育館を走り回った。
しかし、幸せは長く続かなかった。荒れていた中学校にありがちなことで、バッシュが盗まれてしまったのだ。そして僕の手元には、靴底から取り出していたアルファーゲルだけが残った。
高校生になると、僕は黒いローファーを履いていた。カカトを潰されて黒いスリッパと化したそのローファーは、3年間も酷使された挙句、川に投げ込まれた。いや、僕が投げ込んだ。
文化がない、教養がないとは、つまりそういう事だったのかもしれない。
今の僕は、靴を大切に履いている。15年前に買ったeccoというメーカーの紐靴だ。値段は1万3000円くらいだった。革製だから、ときどき磨きながら履いている。残念なことに、eccoは、この靴を買った数ヶ月後に日本から撤退してしまった。
その当時、買うには輸入するしかないと言われてあきらめた。
その後、インターネットでメーカーがどうなったのか調べてみたら、あった。今はインターネットで買えるらしい。
エコー・ジャパン 公式オンラインストア | ECCO JAPAN
eccoさん。15年まえに日本で販売した靴、まだ履いてる人がいます。
今では、すっかり靴好きになって、ヒマさえあれば靴にブラシをかけている。
向かって左が、ビルケンシュトック(BIRKENSTOCK)のティミンズというモデル。右はエコー(ECCO)のローファー。
こっちは、BIRKENSTOCKのハバナというモデル。
革靴っていいよ。