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底辺って、呪縛なんだよ。もしも陰陽師が見たら、きっと僕のおでこには、「底辺」って文字の、お札が、貼りついてるのが、見えるハズなんだ。
うちの親はさ、田舎で場末のスナックをやっていてね、なんとなく周りも避けてた感じでね。あそこの子とは遊んじゃいけない、みたいな。田舎だから、水商売ってレッテルがあってね。すごく昔だよ。
育ちが悪いってね、一言で言ってしまえばさ。
僕なんかは、近所のお母さんたちがいるよね。なんというか、子供たちにお菓子をくれたりっていう。
で、みんなチョコとかもらって、ありがとー、って、そう、みんな、そうなんだよ。
僕は、それを、目のまえで川に投げる。
キャッキャッキャッと、甲高く、笑う。
心にね。穴が開いていたんだよ。胸から背中まで、大砲で撃ち抜かれたような、ギザギザの大穴が、ポッカリ開いていたんだよ。
穴の向こうには、どうしようもない底辺が、ドッシリと横たわっていたんだ。
それから勉強ができなかった。クラスではいつも最下位だった。底辺は、いつも僕とガッチリと手をつないで、まるで無二の親友みたいだった。学力の底辺は18の歳まで、僕とともに歩み続けてきた。
陰気な底辺と、明るい底辺
どっちを選ぶ?
僕は毎回、明るいカードを引いていた。わらっちゃうよね。どちらのカードにも、裏には同じ底辺の文字が書かれているのに。
おとなになってからは、お金が僕を底辺と認定した。ああ、またか、可哀想にって思うかもしれないけど、そうでもないんだ。
僕は、もう、この底辺カードを持っていると、むしろ安らぐようになった。こっちからドッグタグに底辺と刻みこんで、首からぶら下げていたくらいに。
あきらめがついたよ。長かったけどね。
そんなとき、インターネットと出会った。
匿名のインターネットは自由だった。あれ?
ここでは底辺のドッグタグは見えないんだ。おでこに貼り付いた底辺なんて、誰も気にしない。僕は、ここでなら底辺じゃなくていいのかな。ホントに平気なのかなって。
まるで羽根がついたみたいだった。フワっと舞う綿毛になったような気分だった。
楽しかった。
でもそれは一瞬だった。
束の間の夢だったね…。
フェイスブックから、リアルから、蛮族がわらわらとあらわれた。血に飢えた狼のように、金の匂いを嗅ぎつけた、ニートの皮をかぶった、ノマド語りのエグザイルが、首を狩るためやってきた。
僕の愛したインターネットは、僕の愛したブログは、ピーブイで真っ黒に塗りつぶされた。
そして僕は、大好きなブログでも「底辺」のドッグタグを、首に巻かれたんだ。