ちるろぐ

ここが僕のアナザースカイ

クロネコの配達員はなぜ理不尽に耐えられるのか

この国の偉い人たちは、配達の現場についてどれくらい知っているのだろう。

僕は、クロネコ・飛脚は未経験ながら、物流メインの仕事をやってきた。ノンスキルなジョブは、物流の末端がとても多い。

その経験から、なぜクロネコたちは、あんな理不尽に耐えられるのか、僕の思うところを書いていきたい。


給料は良い

実際に働いたことはないけれど、クロネコは大企業なので、正社員の給料は良い。

しかし、仕事内容は、僕のようなノンスキルとさほど変わらない。つまり、冗談のような理不尽に日々さらされるのだ。

それでもクロネコは怒らない。クロネコはたいてい笑顔で、淡々と荷物を捌いていく。


理不尽に耐える心

全国に展開するクロネコ。あのグリーンとパールブラウンの制服を、毎日見かけることができる。そして、すべてのクロネコは、どこか悟っている。その表情は、東洋的なアルカイックスマイルだ。

しかし、配送業(個人宅)は、本当に理不尽の連続だ。その内容をいくつかあげてみる。

  • 時間指定に不在にしている

5分の遅延に激怒する日本人。ところが自分の指定した時間には、平気で不在にしてしまう。

  • 玄関先で待たせる

「ちょっと待って」と言ってなかなか出てこない。件数が多く、時間に追われているときにやられると困る。車の駐禁も心配になる。

  • 車止めるなと怒鳴られる

もしも近所にAmazonショッピングセンターがあったら配達を頼むだろうか。そう。つまり配達先はバカみたいに不便なところが多い。道が狭かったり、裏山の中腹など。必然的に車の駐車には非常に神経を使う。

  • 時間指定を誤解している

例えば、18時〜20時に時間指定していて、18時20分くらいに催促のベルが鳴ったりする。


このように、一般家庭への配送は、理不尽にあふれている。理不尽の大型ショッピングモールだ。しかし、これにいちいち反応していると、心がもたない。そこで、クロネコは、考えないようにする。


クロネコの悟り

指定された時間に配達したのに不在だった。そんなとき、クロネコ以外の一般人は、きっとこう考えるだろう。

① 指定時間に不在
② なんで居ないんだ?
③ 3度目も不在
④ 居留守をしていた
⑤ ピンポン聞こえなかった
⑥ そもそも仕組みに問題あり?
⑦ 持ち帰り再配達

おそらくこれが一般的な思考プロセスかと思う。

しかし、クロネコは違う。

クロネコは、2〜6の思考をバッサリ切り落とす。1から7へ一気に飛ばして、一切考えないようにしている。そうでないと、理不尽の無限ループにハマって自滅してしまうからだ。

これは、ある種、信仰というか宗教に似ている。理不尽を理不尽と考えず、神が与えた試練、避けうべからざる天災のように感じる。そこに疑問を挟まないことで、自らを救済している。それがクロネコなのだろう。


配るべき荷物

尋常でない物量が搬入されたとき、クロネコは現実を直視する。理由は考えない。なぜなら、泣いても、怒っても、議論しても、目の前の荷物が消えるワケではないからだ。

去年の12月、僕は背の高いクロネコと会話した。

僕「大変そうですね…。あと何件あるんですか?」

クロネコ「今日は22時には終わりますよ」

僕「……」

あと4時間、配達しまくるのだろうか。それから営業所に戻って、事務的な何かがあるのだろうか…。僕が言葉に詰まっていると、クロネコは「どうも」と言って微笑んだ。

日は沈み、営業車のダッシュボードは、何百枚と積まれた伝票で消えている。

そんな車に乗って、背の高いクロネコは去っていった。