散るろぐ

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神様と借金のめぐり合わせ

みんなは誰かにお金を貸したことってあるかな。

僕はまえに1回だけ貸したことがあるよ。1年後にお金は無事に返してもらえたんだけど、気持ちは返ってこなかった。もっと大切なモノを失ってしまったんだ。

はじまり

物語りの最初は、僕が働いていた飲食店でのことだった。閉店後の、明かりを落とした店内はシンと静まっていた。僕は自分の片付けが終わって着替えて帰るところだった。

「チルド君、ちょっと時間ある?」

声をかけてきたのは、バツイチのF美さん。彼女はずっとまえに旦那さんと離婚していて、中学生の娘さんと2人暮らしのシングルマザアだった。

顔とかスタイルは、それほどでもなかったけど、人当たりが柔らかくてとても感じがよかった。なにより腰から太もものラインが素晴らしくて、魅力的な30代の女性だった。

僕には決まったパートナー(彼女)がいたけど、F美さんだったら親しくなってみたい、都合のいい感じでお付き合いできればなんて、密かに思っていた。

2人きりの話

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僕は、F美さんと歩いて、駅までの途中にあるコーヒーショップへ入った。

2人きりの密会に、胸の高鳴りが無かったと言えば嘘になるけれど、僕もそれなりに世間を知っているからね。あまり良い話ではないことは察していた。

やっぱりF美さんの話は、お金のことだった。理由はハッキリしなかったけど、早い話がお金を貸してほしいという相談だった。


僕は二つ返事で快諾して、翌日にはもうお金を用意して渡した。そんなに簡単に貸して大丈夫?と思われるかもしれないけど、僕には緻密な計算があった。

ひとつは、彼女の生活状況から急に仕事を辞める心配がないこと。もうひとつは、みんなには内緒だったけど、僕と店のオーナー(経営者の人)は個人的な知り合いだったから。

これで、万が一、支払いが滞ったとしても、回収できる見込みがあった。給料の未払い分や退職金などを担保にすればカバーできる範囲内だったから。

もしもその金額で、たまに2人きりで過ごせるとしたら、僕はきっとあげてしまったと思うけど、それはまた別の話。

貸し付け期限は1年にした。月々にいくらって感じでもよかったけど、その都度、気まずい感じになるのもどうかと思ったから、1年後に一括で返してもらうことにした。

引っかかる言葉

1年ってけっこうあっという間だよね。

いよいよ返済日が近づいてきた。そしてお金は無事に返してもらえた。

でも、その時の彼女の言葉が今もまだ心に残っている。要約するとこんな感じだった。

「チルド君、これ借りてたお金」

「あ、はい」

「神様を信じてきて良かった」

「え?」

「お金を貸してくれるひとと(僕と)めぐり合わせてくれたから」


その時の僕は「え、ええ、まあ、良かったですね…」って感じだった。普通に「ありがとう」「いえいえ」みたいなやりとりのイメージがあったから、本当に意表を突かれた。

でも、どこか腑に落ちない気持ちもあって、そのモヤモヤは時間がたつほどに大きくなっていったんだ。

神様のめぐり合わせ

彼女はマイナーな宗教に入っていた。僕は興味がないから詳しくないけど、寄り合って神様にお祈りするタイプの宗教だった。

彼女の中で今回の件は、神様がお金を貸してくれる人と結びつけてくれたことになっていた。というか、自分の純粋な信仰心が、自分自身を救ってくれたというわけだった。

だけど、彼女はお金が必要となったとき、都合の良い方法を探していたはずなんだ。それは神様のめぐり合わせなんかじゃない。理由を詮索せずにお金をポンと貸してくれる人を探していたんだよ。

そうじゃなければ、兄弟や親戚に貸してもらえばいいし、もっと言えば、そのありがたい神様とやらを、あがめたてまつる連中から貸してもらえば良かったんだよ。

ともかく、それ以来、F美さんを慕う気持ちは消えてしまった。逆に僕は彼女のことを不気味な魔女みたいに感じてしまうようになった。

神様の都合

だいたい、神様ってなんだろう。

F美さんを救った神様は僕だよ、なんて言うつもりはないけど、神様ってお金がらみの窮地にはいつも無力じゃないかな。むしろ見捨てるのがデフォルトなんだ。

世界は人間の都合の良いようになんて、出来ていやしない。良いことばかりなら「神様ありがとう」なんて呑気に言ってられるけど、じゃあ、交通事故で亡くなった子供は?紛争に巻き込まれて命を落とした一般市民は?

なんの落ち度もなく、不条理に失われていく命に、神様はいったい何をしてくれるっていうんだ。

ちゃんちゃらおかしいよ。


今日はこれで終わり。

自分の中でまだ消化しきれていないから、とりとめのない文章になってしまった。

僕は、お店を辞めたから、その後のF美さんについては、なにも知らない。

この歳になるまで、いくつもの出会いと別れを繰り返してきたけど、世界は僕にとって、いつも分からない事ばかりなんだ。