窓の向こうが、夕暮れ色に染まるころ、僕はむかし働いていた、果物屋さんの社長とした会話を思い出していた。
僕は、小さいマンゴーをざるに盛りながら、ふと「テレビで見るような、おっきいマンゴーは仕入れないんですか?」と社長に聞いた。
社長は、あみだにかぶった帽子に手を添えて言った。
「そんなのは、こっちは入荷せんよ。カミ(都会)さ出荷されるけ。高級で希少なんは、ぜんぶ東京にいくやんな」
そうなんだ。高級なマンゴーは、高値で売れる都会へ出荷されて、地方の市場には入荷すらしないのか…。
そのとき、僕は思った。
これって、大きいおっぱいと一緒だ。

大きくてたわわなおっぱいは、都会へ出荷されて、地元には小さくて貧素なのだけが残る。だから、僕のまわりには、貧乳の女の子しかいない。
学生のころ、おっぱいの大きい子はいたのに、働きはじめると、ぜんぜん見かけなくなった。
まわりに女の子はいるけど、ほとんどの子は、おっぱいが小さい。学歴には幅があるのに、おっぱいの大きい子だけ、忽然といなくなった。
そうなんだ。あの子たちは、高級マンゴーとおなじで、需要のある都会へ行っちゃったんだ…。
そうか、もう、おっきいマンゴーは手にはいらない。それどころか、おっきいおっぱいと、出会う機会すらない。
僕には、何もない。
過去も、現在も、そしてこれからも。
ところが、そのあと、フルーツの詰合わせを届けにいった先で、ハッとするような、おっきいおっぱいを見つけた。
そこは、歯科医師会っていう、歯医者さんの本部で、彼女は事務員さんだった。
僕はドキドキしながら、おっぱいにフルーツの詰合せを手渡して、領収書にかいてある3万5千円を受け取った。
おっぱいも素敵だけど、笑顔もまぶしい。のばした手は、指先まで光って、爪がコーティングされてキラキラしている。
いっぽうの僕は、爪は汚れて手のひらは真っ黒。ズボンも破れてる。毎日、土のついたダンボールを運んでるから、しょうがないのだけど。
おっきいおっぱいとは、住む世界がちがうのだ。
そんな下流でもがきながらも、フルーツの詰合せは、僕をキラキラした、知らない世界へ連れて行った。
一級建築士のいるモダンな設計事務所。ビルのワンフロワをぶちぬいたスーツばかりのオフィス。鳥居みたな玄関の、美術館みたいなお家。
そこにも、やっぱり、おっきいおっぱいがあった。それは、まったく形式ばったものじゃなく、呼吸するように自然と揺れていた。
僕は、少しまちがえていた。
高級なマンゴーは、すべて都会に送られているんじゃない。ワンランク上の世界に送られているんだ。おっきいおっぱいは、その世界のゲートを抜けるライセンス。パスポートみたいなものだ。
農協の直売所、野菜の加工場、スーパーの薄暗いバックヤード。そんなとこに、あるはずもないのに。
甘く熟れた果実は、いつだって僕らの手の届かない高さにある。