「メシだけ炊いといて」
そんなセリフ、耳にしたこと、あるいは言ったことはないかな。もし言っていたら、今すぐに考えを改めてほしい。
ごはんは炊くだけ、研いでボタンを押すだけ。
それは大きなまちがい。
令和の時代に、ごはんを炊くっていうのは、高度なスケジューリングと、やってあたりまえという不条理さに満ちた、とても厄介な要求なんだ。
今日はそんな「ごはんを炊くことの厄介さ」を、言語化してみる。
① 買う
市販のコメは、1キロ、2キロと、小分けも存在するけど、価格面のスケールメリットと運用のコストまで考えると、現実的には5キロ(または10キロ)入りの選択になる。
ちょっと待ってほしい。
イオンのカートに5キロのコメを抱え上げる。セルフレジでまた抱えて、通しにくいバーコードをスキャンして手持ちのマイバックへ入れる。
さらに、米価高騰で、ありえない金額を自動キャッシャーに投入(精神的な負荷を受けつつ)する。
キツい思いをしたうえに、高額の支払いまである。これがあたりまえかな?小僧?
② おひつに移す
セカンドステップはコメを砥ぐ…と思われがちだけど、ちょっと待ってほしい。コメを購入したということは、家に保有している残存米が少ない、という事実を見逃してはいけない。
ましてや、おひつに残ったおコメへ、新規のおコメをぶちこんでグシャグシャっと撹拌する?
絶対に許されない。
あたらしいおコメを移すときは、いったん残ったおコメを取り出して、おひつを清掃してから新規米を投入しなければならない。
残存米はふるいにかけ、最後におひつへ継ぎ足すのが望ましい。衛生面からも虫の発生は絶対に防がなければならない。
③ 砥ぐ
おコメを炊くとき、重要視されがちな研ぎの工程。だけど、じつは、これが最も容易い作業。シャカシャカとかき混ぜ、それを2〜3回繰り返し、水の濁りが無くなったら完了。
最後に注ぎ足す水は、浄水器の水がいいよ。
④ 炊く
前記のスリースッテプを経て、ようやく炊く工程にたどり着く。永遠に思える道のりも、過ぎ去ればあたらしい未来へ向かう架け橋。
おコメは研いだあとが重要で、研いで炊飯器に釜を戻してスイッチオンしていいのは小学生まで。仕上がりのパサつきを防ぐため、大人なら研いで最低でも30分は水に浸して浸水させないといけない。
このときに室内の温度にも気をつける。エアコンで温度管理していたら問題ないけど、エアコン無しの真夏に研いだコメをそのまま放置すると、最悪、傷む(腐る)危険もある。
つまり、研ぎに4分、水量メモリ合わせに1分、浸水に30分、それから炊飯(または炊飯予約)ボタンを押す。
念のためいっておくと、浸水はマストだけど、逆に浸水させすぎてもいけない。また、待機時間に気を抜いて、研いだけど炊飯ボタンを押し忘れてもいけない。
落ち着いて聞いてほしい。
おコメを砥ぐ、メモリを合わせる、30分置く(米種に応じて調整する)、炊飯ボタン(または炊飯予約ボタン)を押す。こんなカンタンなこと、ミスしてはいけない。
⑤ 余りごはんの管理
ごはんを提供したのち、登場する最重要タスクが、余りごはんの管理。
保温でおいしく提供できるのは最大12時間まで。
だから、ごちそうさました後、残ったごはんは、刻一刻と劣化していくから、次回に備えて保温するのか、あるいはラップに小分けして冷蔵、冷凍するのか判断しなきゃいけない。
こいつらは、果たして、12時間以内に、またコメを食べるのだろうか…?
保温したあとで、やっぱやめた、となり、その段階で小分け保存するのは、なにかひどい失敗をした気分にさせられる。
⑥ 食品ロス
食事の選択肢が多様化した現代、とりあえずコメを炊いておくという行為は、あまりにもリスキーになっている。
もしも食べなかった場合、あるいは、釜にごはんが残っているのを忘れていた場合、廃棄という最悪の決断を下さなきゃならない。
炊いたごはんを捨てた経験はある?
シンクの三角コーナーに破棄するにしても、そのまま放置すると、発酵して大変なことになる。ゴミ箱にそのままポイなんて論外。必ず小さいビニール袋に隔離して破棄しなきゃならない。
ここでも、ごはん特有の粘度がネックになってくる。炊いたごはんは、釜やしゃもじにベタベタとくっつくから、とても作業しずらい。
食べるときには嬉しい適度な粘りが、破棄するときは最大の敵になる。このトレードオフのジレンマが、ごはん余りの管理を一層困難にさせる。
⑦ お釜を洗う
やっとぜんぶ洗いおわった、と思ってスポンジを片付けたら、お釜としゃもじが残っていた。
ちょっとすすぐだけじゃ、おコメを洗い落とせない。それは知っている。
屈辱と苛立ちに震え、奥歯を噛み締めながら、私は今日もシンクのまえで立ち尽くしている。
最後に
これでもまだ「メシだけ炊いといて」とか、軽々しく言える?
要するに、ごはんは、炊くまえの入念なスケジューリングと、余りごはんの処置と、それぞれのタスク管理がとっても煩雑なんだ。
ごはん以外のものを食べる、外食になる、人数が増えて足りなくなる。複雑に多様化した選択肢が、おコメを炊くのを困難にしている。
もしも貴方が、自分では何もしないくせに、美味しい炊きたてのごはんを食べられているとしたら、それは
無知ゆえの愚かさだと認識してほしい。
美味しい炊きたてごはんは、それを提供すべく、人知れず苦労する人のおかげなのだから。