ちるろぐ

ここが僕のアナザースカイ

クラスタってなに?(怒)

クラスタってなに?

唐突に彼女は言った。

連日つづくコロナ報道のさなか、たびたび登場するこの単語に、彼女は過剰なほど語気強く吠えた。憤懣やるかたないという風情で、たいそうご立腹の様子だった。

僕はそれに、あえて即答を避け、窓の外で舞う雪を眺めていた。

ねえ?クラスタってなに?なんなの?

ふたたび彼女は苛立ちを隠すことなく、僕を問いただした。

クラスタとは、なんぞや?と。

クラスタかぁ。

クラスタというのはね、固まりって意味だよ。

さっきテレビに小池都知事が言ってた文脈なら、コロナの集団感染が発生する場所、みたいな認識で使ってると思う。

それがなんで?

なんでクラスタなのよ?

そもそもクラスタは、PC関連の専門用語なんだよ。パソコンのデータを記憶する装置をハードディスクと言うんだけど、ハードディスクはカセットとかビデオテープみたいな、いわゆる磁気記憶装置のことで、そのハードディスクの一部が壊れて読み込みできなくなったとき、その壊れた部分をバッドクラスタっていうんだ。

つまり、コロナのクラスタとは、社会をハードディスクに見立てて、集団感染が発生してしまった場所を壊れた固まり、というような意味であらわしたいんだと思うよ。

小池都知事がクラスタを連発してるのは、たぶんだけど、都知事のブレーンというかアドバイザーとういか、その類の資料を作る人たちが、PC関係の知識があって、ついつい使ってしまったんじゃないかな。

固まりがクラスタって、固まりが発生したって、意味がわからないじゃないの。

たしかに。たしかに。

たしかにクラスタが発生するは日本語としておかしい。集団の言い換えとしてクラスを用いたとしても、クラスが発生って意味がおかしい。なぜなのかはわからないし、考えたこともなかった。

いや、僕の説明もおかしいけど、クラスタもおかしいんだよ。

もうちょい深ぼりすると、最近いろいろ使われているクラスタって言葉には、多分に否定的なニュアンスがあるんだ。

さっきも言ったように、クラスタはハードディスクが故障したときに出てくるメッセージのことで、昔のパソコンの画面に、

badclusters
badclusters
badclusters
badclusters
badclusters

ってな感じで、壊れたときに連発されるメッセージなんだよ。つまりパソコン屋にとっては、致命的で呪いの呪文みたいなものなんだ。大切なデータが逝っちまったんだからさ。

そもそも、クラスタを最初に言いはじめたのは、パソコン屋の物書きで、初期のブログやツイッターとかで「界隈」という単語を「クラスタ」に置き換えて発言してたように記憶してる。

「あの界隈の連中は〜」、という文脈で「あのクラスタの連中は〜」みたいに。

クラスタにはバッドクラスタの暗喩が含まれているから、「あのクラスタ ≒ 壊れたひとたち」みたいな否定的なニュアンスを付加してる。

これが昨今のクラスタの意味だよ。

そう考えると、きみの指摘したとおり、クラスタってなんだよ!ってなるよね。まったくもって正確な用語ではないし、意味が通じてることが異常なんだと思う。

そこまで言って僕は顔を上げた。

しかしそこには、もうだれの姿もなくて、どうやらまたひとりでブツブツとつぶやいていたらしい。

いざ、はじまれば、ひとり芝居だ。。