火事とケンカは江戸の華、というけれど、僕の働いている会社が、まる焼けになって、もう1ヶ月が過ぎた。
そもそもが、仕入れて売るだけの単純な仕事だから、一時期の混乱を過ぎてしまえば、これという不具合もなく、業務は円滑に遂行できているんだ。
そして、とうとう保険金がもらえることになった。
だいたい、会社がまる焼けになったとして、どれくらいの保険金がおりるかって、みんなは想像がつくかな。
これが、思いのほかビックマネーなんだよ。
具体的な金額は差し控えるけど、例えば、土地の価格が一千万だとすると、その上の建物が全焼したら、ほぼ同額くらい入ってくる。もちろん会社は、ふつうの民家よりもずっと大っきいから、もっともっと多く支払われる。
むろん、僕は、ただのイチ社員だから、そのビックマネーの恩恵は受けられない。残念ながら。
でも、沈没しかけていた会社が、見事に甦った。
燃えた炎のカーニヴァルから、まるで不死鳥のように羽ばたいた。急降下から、奇跡のV字回復を成し遂げたんだよ。
よく「焼け太り」なんて言うけど、アレは本当。
だって、築年数不明の木造住居と、なんの価値も生み出していなかった、不良在庫と設備の残骸が、ウン千万円に化けたんだから。
まさに、とんでもないラッキーなんだ。
これで弊社は、あと20年は寿命が伸びたよ。
まったく、やれやれだよ。
結局のところ、人間の幸福や事業の成功なんて、すべて運なのかもしれない。