きのう、子どもが来ていた。
子どもといっても、大学生か20代かな。もしかしたら、もう働いているのかもしれない。
むかし子どもだった子たち。
うまく言えないのだけど、つまり、スイミングスクールの卒業生が、数年ぶりにスクールへやってきて、コーチや関係者に会いに来ていた。
最近、出産して太った女性コーチが、変わってないねとか、なんで水着もってこなかったのよー、なんて言いながら、昔話に花が咲いていた。きっと、あの頃も、あんなふうに話していたんだよね。
僕は、スマホで遊びながら、ちょっと離れたところから、その様子をつぶさに観察していた。それから、そっと席を立ち、家路についた。
そとはもう夕暮れで、パチンコ店の大きな建物の向こうに、赤くにじんだ太陽が沈んでいくところだった。どこかの家から、唐揚げをあげる香ばしい匂いがして、お腹がグウと鳴った。
歩きながら、ちょっと涙目になっていた。子ども達は大人になって、どんどん時間は過ぎていく。あの子らが、あのプールで泳いだ数年間は、人生のなかでも、たぶん一番長くて、一番楽しかったときじゃないかな。
学校も、勉強も、スイミングスクールも、辛いことも楽しいことも、ぜんぶ思い出になって、永遠に続く夏休み、みたいな、淡い思い出。
そんな子どもたちの記憶のなかに、ずっと残っていくって良いよね。先生って、ステキな職業だなと思った。子どもの苦手な僕には、なれないけれど。
僕の仕事では、出会った人たちも、一緒に働いた人も、お客さんも、顔は覚えているけれど、また会いたいとか、どこかで出会っても、嬉しい気持ちにはならないかな。
僕にはなんにも残ってない。僕のことなんて、誰も覚えちゃいないんだ。