あとさきのない道を歩んできました。
良く言えば活発ですが、悪目立ちするタイプで、目をつけられやすいお子様でした。 通信簿にはいつも落ち着きがないと書かれていました。
しかし、それで萎縮してしまう僕ではありません。僕を落ち着かせることなんて、誰にもできやしない。矢でも鉄砲でももってこい!という気持ちでした。通信簿は川に捨てていました。
行く手を遮る教師には、悪態をつきましたし、イジメっ子には、逃げながら罵声をあびせました。赤信号は止まらず、静かにしろと言われれば騒ぎました。足の届かないママチャリを、手放しで運転していました。
あるとき、その自転車で、柵をウィリーで越えようとして叶わず、激しく転倒してしまいました。そこへ小型パトカーに乗った婦警さんが通りかかったのです。
「ボク大丈夫? 怪我はない? 」
婦警さんはそう言って、僕を助け起こそうとしてきました。僕は「うるせえ!触るんじゃねえ!」と、一喝して、差し伸べられた手を払ってやりました。
すると、その婦警さんは、一瞬ひるんだ様子を見せましたが、すぐに気を取り直し、ツンとすました表情になったのです。
スラッとした足に、整った顔立ち。フザけた制帽からは、サラリとした黒髪が舞う、キレイめの女性でした。生まれてこの方、他人に「うるせえ」などと言われたことなど、なかったのでしょう。
僕は、柵にからまった自転車を、力任せに引きはがし、婦警をにらみつけながら起き上がりました。
「ほらほらーー、キミ、その自転車、足がつかないじゃなーーい」
どうやら婦警は、先ほどの親切に、暴言で応じた僕を、子供扱いすることで、プライドを取り戻そうと考えたようでした。
見え透いた、浅はかな考えです。
「じゃかあしんじゃァアア!ボケェ!ブス!カスゥ!!」
僕は、ありったけの憎悪をこめて吐き捨てると、ママチャリを押しながら婦警の脇をすり抜け、パトカーの車体にケリをいれて、そのまま現場を離れました。
理由はわかりませんが、他人からの親切にそむいたり、言いなりにならないと、なぜだか気持ちがスッと晴れて、楽になるのです。今その瞬間、その刹那の感情を、本能のおもむくままに現す。
それが生きる道しるべでした。
大きくなった僕に会うと「落ち着いた、信じられない」と人は言います。高校生の時分には、静かに読書するのが好きになっていたので、余計に不気味だったのでしょう。しかし、それは、僕の内面が変わったのではなく、現実に興味がなくなっただけでした。
それから、音楽が好きになり、もう二十年付き合っている、今の彼女と出会ったりしているうちに、穏やかで優しい僕に生まれ変わったのです。
もしも、「生まれ変わりたい」と、願う人があったら、まず、普段の行動を変えて、それを習慣化してみてください。
変わることは、本当に難しいのですが、焦らなくても大丈夫です。ゆっくり、ゆっくり、一歩づつ進めば、違う景色が、きっと見えてくるはずです。