僕の働いていた店の出来事なのですが、ちょっと理解に苦しむお客がいました。その人は、店長の友人と言うことで、20年まえから、毎日、お昼にやって来ていました。
そこまでなら、良いお客さんというか、むしろ上得意になるのですが、ひとつ問題がありました。店ではコーヒーを提供しているのですが、そのお客は店長の友人ということで、コーヒー代をもらわないこともありました。
もちろん、コーヒーはれっきとした商品であり、他のお客さんからは代金をもらっています。店長を含め、その他の店員も雇われている身ですから、厳密にはやってはいけないことです。
しかし、店長は、その裁量を広く認められていたので、僕を含めた他の従業員も、それを黙認していました。その後、僕は別のお店へ移ったため、その後については関知していませんでした。
それから、6年の月日が流れ、僕はまたこの店に戻ってきました。店長も同じです。そこで驚いたのが、あれから、6年も経っていたのですが、まだ、その人が通って来ていたのです。
僕は正直「まだコイツ来てたのか…」と、内心、苦々しく思いつつも、お久しぶりですと、当たり障りのない対応をしておきました。一応、店長にも、「まだきていたんですか…」と、眉間にシワを寄せて言ったのですが、店長は悲しそうな苦笑を返すだけでした。
それからも、そのお客は毎日やってきました。普通のお客さんなら、なにも気にならないのですが、コーヒーをタダ飲みしにきているという事実が、そのお客を薄汚い物乞いに見せます。
しかも、たまに訳の分からない友だちを連れて来るのです。とにかく大声でしゃべりまくり、迷惑極まります。そのおしゃべりの話題も、昨日はカレーを食べたというような、くだらない内容です。しかも、あまりにも大声でしゃべるため、お得意様からの電話の声が、聞き取れないのです。僕は、再三にわたり、「お静かに願えないでしょうか」と、お願いしました。電話の声が聞き取れないので…と。
驚いたのは、それでも止めないのです。しゃべるのを止めないのです。
僕は、もう少しで殴ってしまうところでした。しかし、そこはグッと堪えました。しかし、目の前でグラスを割ってしまいました。感情的になってしまった僕は、プロとしては失格かも知れません。しかし、人としては間違っているとは思いませんでした。
その一件があって、しばらく来なくなってホッとしていたのですが、また現れたのです。しかも今度は先にコーヒー代を払って、いかにも客という感じなのです。あれほどの狼藉を働いてよく来れるな、というのが正直なところでした。しかし、お代を頂いている以上はお客なので複雑な心境でした。それから、また、毎日現れるようになりましたが、お代はもらっているので、好きにしろという気分でした。
ところが、また始まったのです。「今日、ちょっと貸しといて」と言って、お代を払わないのです。しかも、その理由が「今、1万円札しか持ってないから」という意味不明なモノでした。お店なので、とうぜん1万円からのお釣りはありますが。
それから、僕が厳しくにらんでいたら、その人は来なくなりました。あわよくば、またお代を踏み倒せると思ったのでしょう。そうはいきません。
それから、やっとその人は姿を見せなくなりました。長い時間がかかりましたが、やっと解決したのです。お客と仲良くなるのはいいのですが、一線は引いた方がいいですね。