ふだん我々が、何気なく利用しているスーパーマーケットだが、閉店間際になると棚の商品がぐちゃぐちゃに散乱しているのを目にしたことはないだろうか。
スーパーマーケットでは、日々、商品の需要と供給が繰り返されている。それは人々の生活の必然と、物流の理であり、若干の乱れが出ることは仕方がない。
ところが、ある瞬間を境に、整然と陳列された棚が、アリエナイほどグッチャグチャになっているのだ。
今回は、その驚きのメカニズムに迫ってみた。
photo by brizzle born and bred
開店まえのスーパー
朝の開店準備中のスーパーマーケットでは、商品の搬入と補充が行われている。特売の商品は積み上げられ、真新しいポップが貼られていく。
惣菜エリアには、綺麗にラップされたお好み焼きとソース焼きそば。山と積まれた裸のアジフライにはトングと紙パックをセットしていく。
バックヤードでは従業員が行き交い、これから迫りくる喧騒の序曲が静かに流れている。開店10分まえの店内放送がながれ、いよいよ扉が開かれる。
閉店後のスーパー
昼間の喧騒が静まり、店内は閑散として行く。ほたるのひかりが流れ、スーパーマーケットは日没を迎える。
従業員は粛々とサッカー台を清掃し、駐車場に放置されたカートを次々に回収していく。
そこで我々は、ある事実に気がついた。
陳列棚の商品が減っているのは当然なのだが、ところどころで、陳列が乱れ、ある部分では完全に崩壊しているのだ。
とくに生鮮食品エリアの棚がひどい。大きく荒らされ、牛乳は無惨に散乱している。あるものは横倒しに。そしてまたあるものはケースの外に放置されている。
営業時間中は、たびたび整理し直されていたのだが、アルバイトがタイムカードを打刻した後、ほんの数時間で、あっという間にズタズタとなっていた。
我々はその過程を調査するべく、さっそく監視カメラで動きを追ってみた。
陳列がグッチャグチャになるメカニズム
スーパーマーケットは、サバンナに例えると水場である。そこには多種多様な野生の動物が自然と集まってくる。
おや。一匹の雌が現れた。
その動物は、棚に近づくと、陳列はみるみるうち破壊されていく。いったい何をしているのだろう。監視カメラで手元をズームしてみると、そこには驚愕の光景が広がっていた。
まず、手前の商品を干からびた両手で押しのけ、さらに奥へ手を突っ込むとひとつを鷲掴みにして引っ張り出した。
そして手前の商品を無造作にひっくり返し、手にした商品と見比べている。その目が捉えているのは賞味期限が記載されている場所だった。
つまり、その動物は、賞味期限が新しいものを手にするため、陳列を破壊して奥から新しい商品を取り出していたのだ。
生鮮食品エリアの崩壊が激しかったのは、賞味期限のスパンが短いためだろう。
商品をゲットした雌の目は血走り、口元には不敵な笑みが浮かんでいる。そして目を上げて辺りを見回している。我々のカメラに気ついたのだろうか。その動物は、そそくさと画面の端へ見切れて行った。
陳列の再生と崩壊
こうしてスーパーマーケットの陳列がぐちゃぐちゃになるメカニズムは解明された。そこには生命の神秘的な営みが隠されていた。
賞味期限という限られた賞味を手に入れるため、野生の動物たちは、日々壮絶な争いを繰り広げている。
地球の悠久の歴史の中で、賞味期限も、そしてスーパーマーケット業態もさほど進化してはいない。まだ誕生してからほんの僅かな年月しか経過していないのだ。
その短い間に、サバンナの動物たちは驚くべき適応力と進化を遂げていた。それは、時として野生の凶暴な牙をむき出しにし、陳列を荒していく。
そしてスーパーマーケットでは、野生動物たちの陳列と崩壊が、今日も繰り返されている。
宇宙船、地球号は、多様な生命をその懐に抱き、今日も旅を続けています。
語り:チルド