ちるろぐ

ここが僕のアナザースカイ

僕に必要なのは治療と休息

思うところあって、治療と休息に専念することにしたよ。療法は未定だけど、とりあえずインターネットから距離をおくことが大事。

なぜか眠れないんだ。

いや、眠れないというより、一睡もできない。本当のところ、目を閉じても眠くならないんだよ。理由はわからないけど、わかってしまうのも怖い気がする。


それでも、無理やり布団をかぶってギュっと目を閉じると、まぶたの裏に浮かんでくるのは、いつも学校の教室の風景だった。

昼休みのおわりかけ、誰かが僕を乱暴につかんで、後ろから羽交い締めにする。「なにするんだよ!」って、振り解こうとするけれど、なぜか声が出ない。

喉の奥に力が入らなくて、叫びは、空気みたいにスウっと抜けていく。その音は、教室のザワザワしたノイズにかき消えて誰にもとどかない。

そして僕は、数人のクラスメイトに、イスから無理やり引きはがされて、教室の後ろまで引きずられていったんだ。


日ごろから生意気な子供だった。よくケンカをして、担任の教師に暴言をあびせた。気にくわなければ授業中でも平気で飛び出した。

大人の都合でつれてこられた街。見知らぬ学校に、友だちなんていなかった。おなじ日本だけど、子供にとっては異国だった。言葉もよくわからない。

そして、スポーツも勉強もできないくせに反抗的だった僕は、きっとクラスの中でも浮いた存在だった。


教室の後ろまで、無理やり引きずられて、リノリウムの床に押したおされた僕は、押さえつけられた腕を、必死に振りほどこうとする。

「やめてよ!」と、叫ぶ声は、また細い吐息になって抜けていく。喉をいくら振り絞っても、言葉にならない。

それでも、めちゃくちゃに足を蹴り上げると、立て掛けてあった用具入れに当って、ほうきが倒れ、ブリキのチリ取りが派手な音を立てて転がった。

その音に、教室の話し声が、一瞬、途切れる。みんなが一斉にこっちらを向き、そして、笑いながら、わらわらと集まってきた。

僕は、仰向けで押さえつけられて、なす術がない。それを見下ろす顔は、どのれものっぺりとした平面で、2つの点が黒く光っている。 たくさんの好奇と軽蔑の眼差しが、涙でゆがんだ先に見える。


あお向けで押さえ込まれて、僕は、怖くなって泣き出した。身動きできなくて、恥ずかしくて、情けなくて、悔しくて─。



すると、輪になって見下ろしていたクラスメイトが、さっと動いた。

その後ろから現れたトイ〇ンナは、涙と鼻水でグチャグチャになった僕を見下ろし、天使のように笑った。そして、足を高く上げるとシミひとつないキレイな上履きで、僕の股間を思いきりふみぬいた。

それからトイ〇ンナは、周囲へ同意を求めるような目配せをすると、ゆっくりとしゃがみ、僕の白い短パンへ手をかけ、慣れた手つきでヒモを解くと、それをパンツと一緒に足首まで一気にずり下ろした。


さらに彼女は、まるで熟練した産婆のように、僕の両足を持ち上げ、恥部をさらしあげた。後ろまで見えるように、ことさらに大きく広げて見せた。

そして両脇の女子に命じて、僕の足を持たせると、僕のオシリを手でバシっと叩いて、ツバを吐きかけ、こう言った。

「ごらん!これが、デブ・ブス・キツイ女は痴漢にあわないと愚弄した間抜けよ!」

トイ〇ンナは、外資系で鍛えられたよく通る澄んだ声で高らかに宣言した。


さらにトイアンナは立ち上がって、今度は自らのスカートを腰までたくしあげ、その優美でほっそりとした足を大きく広げながら、僕の顔の真上まで歩み寄ると─


そこで僕は、掛け布団をガバっとして目が覚めた。

なんだったんだ、いまの映像(イメージ)は……。

真夜中のシンとした寝室で、全身はびっしょりと汗に濡れ、表情がこわばってうまく作れない。心臓はメトロノウムのようにガチガチと脈打っている。真っくらな部屋で、見開いた目には、なにも見えない。




恐ろしい、恐ろしい。

ただひたすらに恐ろしい。


僕は、まちがいなく治療が必要だ。あした、この文章をプリントアウトして、病院へいこう。



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