ちるろぐ

ここが僕のアナザースカイ

セイシェルは美しい島だった


日曜日の夜、ゲームをしていると、テレビから「セイシェル」という単語が聞こえてきた。僕は思わず手を止めて、画面に目を移した。すると、そこには美しいビーチが映し出されていた。

真っ白な砂浜で戯れる男女…外海の強い波…さんさんとふりそそぐ陽光…それはまさしく、常夏の楽園と呼ぶにふさわしい、開放的な絶景だった。


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photo by whl.travel

セイシェル

僕が「セイシェル」を知ったのは高校生のとき、ある一通の手紙からだった。僕は、郵便受けへ届いた自分宛ての封書を、こっそり部屋へ持ってあがった。

送り主はKDDIで、封筒には1枚の振り込み用紙が入っていた。その入金先が「セイシェル」だった。僕は、近所のコンビニで粛々と料金を支払った。

PHS

最近は小学生でも携帯電話を持っているけど、僕が初めて携帯電話をもったのは高校生のときだった。ピッチという、050から始まる11桁の番号。それが僕の携帯人生のはじまりだった。

それ以前は、携帯電話そのものがなかった。いや、あるにはあったが、とても高価で実用に耐えるものではなく、ようやく一般へ普及し始めたのがこのピッチだった。

僕が携帯を持った理由は、当時つきあっていた彼女の勧めだった。「これでいつでも繋がれるね」彼女はそう言ったが、僕には意味がよく分からなかった。毎日合って話しているのに、これ以上、僕になにを語れというのだろう。

今と変わらず、友だちの少なかった僕には、わざわざ電話するような相手も居なかった。

ダイヤルQ2

そんな僕が、唯一、自分からかけていたのが、ダイヤルQ2だった。0990から始まるその番号は、たいてい成人向け雑誌の片隅に記載されていた。1分100円か、3分100円だったのか、詳細は忘れてしまったけれど、有料の音声サービスだった。

その番号へかけると、女性のあのときの声が聞こえるのだけど、それは単純にテープが繰り返し再生されている訳ではなく、かけてきた電話を適当に繋げているようだった。だから、ときどき男女の普通の会話が聞こえてきたり、あるいは終始無音でザーというノイズだけだったりした。

なにが面白いという訳ではなかったのだけれど、僕はひとりでいるとき、ときどき電話をかけては、そのノイズだらけの回線に耳を澄ましていた。

海外送金

一ヶ月の利用料金は1000円前後で、多くても3000円弱だった。送金先は決まってセイシェル共和国で、名前しか知らないその国は、僕の中で長いあいだ、およそ20年も、ノイズの入り混じった暗い風景として、心の深くによどんでいた。

地理的な場所は、インドとアフリカ大陸の先端を、直線で結んだ中間地点の小島で、インド洋のさえぎる物のない孤島には、絶えず強い波が打ちつけている。

セイシェルは美しい島だった。