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昨日は博多に行ってきたよ。ひさしぶりに土曜日がお休みだったからね。
よく「福岡には美人が多い」って言うけど、それは博多のことなんだよ。こっちのひとが言う「博多」は、天神周辺と博多駅を結ぶエリアのこと。あの辺に有名百貨店や大きな商業施設が集中してるんだ。
そのせいかお洒落な人がふつうに歩いているし可愛い女の子も多い。すれ違う女の人はなんか良い匂いがするんだ。
福岡県って博多以外の土地はかなり田舎なんだよね。場所によってはイオンも見捨てるような寂れたところだったりする。
だから僕たちは新幹線や高速バスに乗って博多に行くんだよ。
コーヒーショップ
僕が休日を利用して博多に行くのはコーヒーショップが目当てなんだよね。どこって全国展開してるお洒落なお店だよ。
そのコーヒーショップは地元にもあるけど、わざわざ博多まで足を運ぶのには理由がある。昨日は新幹線で行ったよ。ちゃんとスーツを着ておろしたてのYシャツに袖を通してね。
スマートフォン
1900年代、ウォークマンの登場によって僕らは音楽を持ち歩けるようになった。そして2000年、スマートフォンの登場によって僕らは映像を持ち歩けるようになったんだ。
僕が選ぶコーヒーショップは公衆無線LANが常設してあるから、格安SIMカードのスマホでも思う存分インターネットを楽しむことができるんだ。
スマートフォンとインターネット。それから公衆無線LANが僕の夢を叶えてくれた。
2つの現実がひとつになる
僕はコーヒーショップに入ると、いつもトールサイズをチョイスして、必ず外の通りを見渡せる席に座る。
外の歩道にはさまざまな人々が行き交っているよ。なかには制服姿の娘もチラホラ見かける。やっぱり土曜日を選んで正解だったね。
そしてコーヒーに口をつけてからスマホを取りだし「○○○○・制服」と入力して画像検索をかける。それはやがてスマートフォンの強化ガラスの向うと、店内と外界を隔てるガラスの向うをリンクするんだ。
ウィンドウをへだてた清潔な街なみを回遊する女子高生。次々と画面に現れるさまざまなアングルのスカートの中。300万の画像が僕のモノゴトの見方を変えていく。これが多眼思考ってやつ。
僕の知覚は時間の経過とともにスマホの画面からガラスの向こうと同化していく。どこからが現実でどちらが本物なのか区別がつかなくなる。当たり前だよね。どちらも現実なんだもん。
映像と日常がひとつになる
ちかごろのイヤフォンの性能はすごい。コーヒーショップのお洒落な空間に大きな喘ぎ声が響きわたる。オフィススーツに身を包んだ女性が大きく足を広げ高いヒールを履いたままデスクの上に身体を投げ出している。
僕はみるみる画面に引き込まれていく。食い入るように成り行きを見守っている。時間の感覚がマヒしていく。そしてハッと我に返る。
あわてて目を上げると隣の席ではショートボブとエナメルポーチの女性が手振りを交えて談笑している。やっぱりいい匂いがする。
イヤフォンからは切迫した荒い息遣いが流れ、画面のなかではスーツを着たままの男女が複雑に絡み合っている。真昼の明かりがテラスにさんさんと降りそそぎ幾何学的な影を描く。通りには大勢の男女が行き交っている。
男女の営みと土曜の日常が渾然一体となって何がなんだか分からなくなる。ジュポッジュポッという摩擦音とカウンターでフラペチーノを味わうスレンダーな横顔が同調する。
画面のなかで無造作にタイトスカートがずりあがっているとき、ショートパンツに肉感的なふくらはぎが歩道を足早に駆けていく 。
人々の日常とコーヒーショップの静寂とイヤフォンから流れる息づかい。スマホの画面ではすべてが裸になり原始的な営みが繰り返されている。
帰宅
僕はイヤフォンを丁寧に巻きとってバックにしまい、スマホを綺麗に拭いて内ポケットにおさめた。会計を何くわぬ顔ですませて歩道に出ると車の音や人々のざわめきに紛れ込んだ。
ガチガチになってしまった下腹部を持て余しながら雑踏を歩く。それはやがて縮んでしまい、後には恥ずかしい染みが残った。
帰りの新幹線では座席が空いていたので、座ってぼんやりしていた。楽しかった休日は終わり、明日からはまた老人だらけの町に戻る…。みんなはどんな休日を過ごしているのかな。
休日のコーヒーショップささやかな楽しみ…という話題でした。