ちるろぐ

ここが僕のアナザースカイ

お祭りを楽しめない

今年も、夏祭りの時期がやってきて、子供たちのたたく太鼓の音が遠くに聞こえる。毎年、性懲りもなく繰り返されるこの行事が、僕は苦手なんだよ。

まず、交通規制というような、運転の妨げになる規制が駅を中心に張り巡らされてしまって、市内を車で移動する僕にとっては、ストレス以外の何物でもない。

ウッカリ忘れて紛れこむと、無闇に渋滞にハマったり、通るべき道が封鎖されていて、バカげた迂回を余儀なくされたりする。

運転に短気は禁物だけれど、このときばかりは僕も、ハンドルを両手でバンバンと叩いて、幼児のようにふるまってしまう。

僕に子供でもいて、太鼓たたきの一部に参加でもしていれば、この迷惑な行事も、あるいは、もっと鷹揚な気分で、受け容れられたのかも知れないけれど…。

それに、僕自身が子供のころに、お祭りにイヤな記憶もある。

ウチは特別に貧しい家庭ではなかったけれど、僕の義務教育時代は、決まったお小遣いがなくて、必要に応じて、父へ申請するシステムだった。

お祭りは、そのシステムで金銭を要求するのに、絶好の機会ではあったのだけど、せいぜい300円が限界だった。

父は、お祭りへ子供を連れて出かけるような、そんな出来た大人ではなかったので、僕へわずかな小銭を与えて、渋い顔をしていた。

なにシケたツラをしているんだ。お前が毎日3本あけている缶ビールは、1本300円じゃないか。僕は心のなかで、そう呟きながら、ありがとうと言って、家を飛び出し、太鼓の音のする方へ歩いていった。

この頃から、単独行動を好んでいた僕は、徒党を組まなければ、怖くて街も歩けないクソガキどもを尻目に、肩で風を切ってブラブラと公園を歩いた。

薄暗い公園には、赤とオレンジの屋台が、ところ狭しとならんで、甘いソースの焦げた匂いが漂っていた。

僕の手には、最後の100円玉が握られていて、何か買えるものはないか物色していた。ここへ来る途中に、スーパーでアイスを買い食いして、おもちゃ屋で、かんしゃく玉を一袋調達したから、もう100円しか残ってなかったんだよ。

そこで見つけたのが、フランクフルト1本100円の文字だった。公園をぐるっと一周してみたけれど、100円ちょうどで買えるのは、ジュースとそれだけだった。

僕は、最後のコインを、フランクフルトと交換して、食べながら歩いた。

ちなみに、かんしゃく玉は、僕のお気に入りのアイテムで、こいつを道路に撒くと、クルマが踏みつぶして、景気の良い音を響かせてくれる。

ただし、そのまま現場にボケっと突っ立っていると、警察が飛んでくるのを、経験上知っていたから、撒いたらスグに現場を離れて、団地の上階から高みの見物をしなければならない。

その楽しみは、後にとっておくとして、そろそろ帰るとするか。お金を使い果たすと、お祭りほどツマラナイ行事はない。

フランクフルトを半分食べたところで、さっきの店のまえを通りかかると、ケチャップと書かれた丸い大きな缶を見つけた。

あれに漬ければよかったんだと、僕が近づいて缶に食べかけのフランクフルトを突っ込もうとすると、それを見張っていた店主が、鋭く注意してきた。

「ボウズ!食べかけ付けよったら汚かろうもん!」

僕は、最初、なにを言っているのか、サッパリわからず、ポカーンとして店主の顔を見ていた。すると、それを察したのか、店主は、なぜ二度漬け禁止なのか、噛み砕いて説明し始めた。

要するに、フランクフルトに口をつける前に、ケチャップをつけろと、そう言うことだった。

しかし、その理屈はわかったものの、はじめにドップリと漬け込んでしまったら、酸っぱくて食べられないだろう。

僕は、そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら、まだ、クドクドとしゃべり続けるおっさんに嫌気がさして、食べかけのフランクフルトを、ケチャップに投げ込んで、その場からダッシュで逃げた。

それから僕は、近所でお祭りがあっても、あの空間へ近づくことは無くなってしまったね。

そもそも、お祭りの屋台で売られている物には、手を出さない方が賢明だよ。のちのち知った、あるテキ屋さんは、材料も衛生管理も、めちゃくちゃヒドイものだったから。




今日思い出したのは、そんな話です