台風のつぎの日

風がごうごうと吹いて、僕の住んでいた二階建ての長屋は、今にも倒れそうだった。それが台風について、もっとも古い記憶で、小学校の一年生くらいだったと思う。

今日は、台風3号がやってくるとのことで、市内の学校はぜんぶ臨時休校になった。僕は残念ながら、お休みにならなくて、いつも通りに会社へ来ている。

でも、こんな日に、お客さんなんて、来るワケもなくて、スマホを見ながら、ぼーっとしている。

台風の翌日は、カラッと晴れた良い天気になって、朝の濡れたアスファルトの道路を、パシャパシャ音を立てながら学校まで歩いた。

学校のおわった帰り道、桑畑の横を歩いていると、用水路の水が満杯になって流れていた。ふだんは、ちょろちょろしか流れていないのに、その日は、前日に降った大雨で、満杯になっていたんだよ。

僕は、その変貌に「ウッハー」っとなってしまって、水路の流れに大きな石を沈めたり、木の棒を浮かべてみたりした。

それから、近くに大きな木の板を見つけて、それを水に差し込んで、流れを止めようとした。板を水にさすと、グーっと水位があがって、一瞬だけ流れを堰き止めることができた。

よし、僕はこの水の流れを止めてみせる。そう決意して、板をグイグイ押し込んで、チカラをこめると、見事に流れを堰き止めた。

やったー、と思ったのも束の間、恐ろしいほどの水圧が板にかかって、もろくも板は押し流され、チカラを込めていた僕は、勢い前のめりになって、水のなかへ頭から転落してしまった。

ぐるっとカラダが一回転して、大量の水が鼻と口からガボっと飛びこんできた。ウヒャーっとなって、水から這いあがると、手のひらや顔をコンクリートにこすって、擦りキズだらけになってしまった。

見ると、腕や顔に、ナゾの細い透明な虫がはりついていて、あわてて手で払いのけた。かるっていたランドセルの中身は、ぜんぶ暗い暗渠へ押し流されていった。

水の流れは、カンタンには止められないのだ。

そんな教訓を得た僕は、強大な自然のチカラに打ちのめされ、全身ずぶ濡れになって、ふるえながら家路についたのであった。