ちるろぐ

ここが僕のアナザースカイ

ねずみ色のスウェット

小学生のころ、いつも半袖と短パンの子っていなかった? それこそ真冬の小雪が舞うような日でもその格好で走り回る子供がさ。

僕はそんな薄着はしてなかったけど、動きやすくてボタンのついていない服が好きだった。

中でもお気に入りだったのが、ねずみ色のスウェット。上下がセットになって、どこのメーカーのロゴも入っていない、煤けたねずみのスウェットだった。

両親は新しい服をいくつも買ってきたけど、僕はそれに見向きもせず、毎日そのねずみ色のスウェットを着続けていたんだよ。


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photo by 1981Adam

親の自覚

ある日、大勢のおとなの集まりに出かけることになった。僕はいつも通りボロボロのスウェットに袖をとおして、父と集まりに参加した。

そこで、父と僕は、見知らぬ婦人に呼び止められた。どこにでもいるような、誰かのお母さんって感じの人だった。

そして父が振り返ると、婦人は僕のことをつま先から頭のてっぺんまで見てから、こう言ったんだ。

「失礼ですけど息子さん、毎日おなじ服をお召になってますよね。…親の自覚、ありますか?」

すると、今までざわざわしていた話し声がピタリと止んだ。周りの大人たちは一斉に父と僕、それから婦人を見て黙ってしまった。

父は真っ赤になって「この子はこの服しか着ようとしないんです」って正直に言ったけど、その言葉を信じる人はその場に誰もいなかったね。

悪態をつく子供

僕がなぜその服を気に入って、いつも着ていたのかは今でもよく分からない。ひとつだけ言えるのは、僕は、誰になんと言われようとも、その服を着替える気はなかったってことなんだ。

今よりも確固とした潔い生き方をしていた。

あのときも、子供とは思えない悪態をついたように思う。お決まりの「ばばあ地獄におちろ」だったかもしれないし、覚えたての「けつから腕をつっこんで奥歯をガタガタいわせるぞ」だったかもしれない。

ものごころついてからは、そんな言葉は使わなくなった。悪魔の子と呼ばれた僕は、すっかり丸くなり人畜無害な大人になってしまった。

しかし、それは本当に大人になったと言えるのだろうか? このままじゃダメだ。そろそろ、ねずみ色のスウェットを着なければならない。