散るろぐ

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セイシェルは美しい島だった

日曜日の夜、僕がゲームをしていると、テレビから「セイシェル」という言葉が聞こえてきた。僕は思わずゲームをしている手を止めて、画面に目を移した。するとそこには美しいビーチが映し出されていた。

真っ白な砂浜で戯れる男女…外海の強い波…さんさんと降りそそぐ陽光…そこはまさしく常夏の楽園と呼ぶにふさわしい景色だった。


http://www.flickr.com/photos/40382540@N08/4189656823
photo by whl.travel

セイシェル

僕が「セイシェル」を知ったのは、ある一通の手紙からだった。高校生の僕は、郵便受けへ届いた自分宛ての封書を、こっそり部屋へ持ってあがった。

送り主はKDDI。封筒の中には1枚の振り込み用紙。その入金先が「セイシェル」であった。僕はさっそく近所のコンビニへ向かい料金を支払った。

PHS

最近は小学生でも携帯電話を持っているという。僕が初めて携帯電話をもったのは高校生のときだった。ピッチという050から始まる11桁の番号。それが僕の携帯人生のはじまりだった。

それ以前は、携帯電話そのものがなかった。いや、あるにはあったが、とても高価で実用に耐えるものではなく、ようやく一般へ普及し始めたのがこのピッチだったのである。

僕がこのPHSを持ったのは、当時つきあっていた彼女の勧めだった。「これでいつでも繋がれるね」彼女はそう言ったが、僕には意味がよく分からなかった。毎日合って話しているのに、これ以上、僕になにを語れというのだろう。

今と変わらず、友だちも少なかった僕には、わざわざ電話をかけるような相手も居なかったのである。

ダイヤルQ2

そんな僕が、唯一、自分からかけていたのが、ダイヤルQ2だった。0990から始まるその番号は、たいてい成人向け雑誌の片隅に記載されていた。1分100円か、3分100円だったのか、詳細は忘れてしまったけれど、有料の音声サービスだった。

記載された番号へかけると、女性のあのときの声が聞こえるのだが、それは単純にテープが繰り返し再生されているという訳ではなかった。ときどき男女の普通の会話が聞こえてきたり、あるいは終始無音だったりした。

なにが面白いという訳ではなかったのだけれど、僕はひとりでいるとき、ときどき電話をかけては、そのノイズだらけの回線に耳を澄ましていた。

海外送金

一ヶ月の利用料金は1000円前後、多くても3000円弱だった。送金先は決まってセイシェル共和国。名前しか知らないその国は、僕の中で長いあいだ、およそ20年も、人知れず暗く、ノイズの入り混じった景色として、心の深くによどんでいた。

地理的な場所は知っていた。インドとアフリカ大陸の先端を、直線で結んだ中間地点だ。さえぎる物のない孤島には、外海からの強い波がいつも打ちつけている。

セイシェルは美しい島だった。