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こんちは。ライターのチルドです。
むかしファミリースタジアムって野球ゲームがあったんだ。略してファミスタ。今の時代で言うならパワプロかな。対戦型の野球ゲームだと思ってくれたら間違いないよ。
僕たちは中学生のころみんなで集まってこのゲームをするのが大好きだった。実在のプロ野球選手をオマージュしたキャラが、自分の分身みたいにホームランを打ったり150キロの豪速球を投げたりしてスタジアムを駆け回っていた。
ところがある日、友人のひとりが勝ったら10円ねって言い出した。別に10円なんてぜんぜん惜しくないから、それからは10円玉を用意してプレーしていたよ。
すると不思議なことが起こった。
ゲームに入り込んでいた僕が消えてしまった。ブラウン管(ディスプレイ)の中にいた僕がいなくなってゲームをプレイしている僕がいたんだ。要するにゲームの目的が楽しむことから、勝つこと、負けないことになってしまったんだね…。
そういう出来事は僕が歳を重ねるたびに増えていった。今インターネットで稼いでいる人たちがいるけど、最初はインターネットが大好きで、プログラミングや新しいウェブサービスを心から楽しんでいたと思う。
でもそこにお金が発生するようになった。その前とその後では何かが変わったと思う。僕たちがファミスタにお金をベットしたときのようにね。
アルバイト
僕は高校生のころずっとスーパーマーケットでアルバイトしていた。学校からまっすぐに帰宅して着替えたらバイト先に直行していた。時間は17時から23時まで。毎日6時間以上働いていたよ。あそこで僕が作った58日連続出勤の記録はまだ更新されていないと思う。
いつ潰れてもおかしくなかったあのスーパーが10年後にまさかテレビで紹介されるような優良企業になるとは夢にも思わなかったよ。あのとき社員になっておくべきだったかな。
顧客満足度
スーパーマーケットでお客さんを本当に満足させることってなんだと思う?
ひとつはレジ。レジでお金や値段を間違えたりモタモタして無愛想だったりすると、それはダメなお店だよ。
もうひとつは鮮魚。雑魚じゃなくてお魚屋さんだよ。魚って野菜やお肉より商品管理がずっとたいへんなんだ。素材や切り身が新鮮じゃないとお客さんは他所へ行ってしまう。
僕の長所は素直なことなんだ。だからよく訓練されたアルバイトになれた。品出しから始まってレジ打ち、商品管理、店長代理と順調にステップアップしていった。その中でも店長代理の一年はラクだったね。閉店したあと精算して戸締まりして帰るんだけどそれまでの5時間は自由だからね。
たいへんなのは鮮魚部とレジ打ちだった。どちらも責任の所在がハッキリしていて誤魔化しが効かないんだよ。スーパーの仕事でもっとも責任が重いんじゃないかな。
もしも顧客満足度を上げるなら、まずお魚屋さんとレジにスキルの高いひとを配置するべきなんだね。とうぜん給料も高いのが理想。
だけど現実はちがう。
お魚屋さんはせいぜい中くらいの地位と給料。レジなんていつでも替えがきく使い捨ての人材だ。それがスーパーで学んだ社会の法則ってやつ。
つまり、出世するとラクが出来るようになるってこと。偉くなるってのは「自分がやりたくない地味なことを他人に安くやらせること」なんだよ。
マックジョブ
マックジョブって知ってる?
マクドナルドのお店で働くひとのことだよ。いつでも替えがきく将来性がないひとの仕事って意味らしい。
でもマクドナルドの社長は給料をもらうためにはマックジョブをしてくれる誰かがいなきゃならない。
僕たちはマックジョブから抜け出す努力をしたりそもそもしなくてもいいように別のルートを探す。前者は社畜後者はキャリアとか呼ばれてるよね。
でも仕事そのものを評価するひとは誰もいない。
どんなに大きな企業でもたいてい同じ構造になっている。責任ある仕事やりたくない仕事は使い捨ての人材にまわってくる。
僕が生まれた時代
僕が願う幸せってそれぞれの仕事が評価されることなんだ。だけどこの世界の評価軸はそこには無かった。
ゲームの攻略法は最初からお金を持っているか無ければテーブルについて配られたカードで勝負することなんだ。
負けたギャンブラーはみんなの労働の成果をゼロにして肩をすくめて退場していく。勝ったギャンブラーはテーブルにつかなかったひとびとの富を独占する。
みんなが入りたがる優良企業のトップ30の年収ってのを見たよ。平均的な従業員の100人分だった。マックジョブの500倍だった。
それが僕の住む世界の現実なんだ。
お金を貯めるコツってのは、僕みたいに現実を受け入れること。使う気力が無くなってしまうからね。そしてもうひとつは、この現実を利用して使った以上に稼ぐことだよ。
みんなの幸運を祈ってる。
んじゃ、また明日ね。