散るろぐ

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2トントラックの思い出


かれこれ5年前かな。

僕はトラックの運転手をしていた。ふだんは2tトラック、たまに4tも使っていた。毎日200キロ近く、同じ道を行ったり来たりしていたよ。

最初は、知らないことばかりだった。何もかもが新鮮に感じたよ。どのルートが最短距離なのか、どの道が空いているのか、何時間で往復できるか、なんて考えたりしてね。

でも、一ヶ月もすると、こう考えるようになった。

「僕は毎日、おなじ景色を眺めながら、いったい何をしているんだ?」とね。

何のために生きているのかわからなくなるんだ。つまり、長距離トラックの運転手になれば、誰でも哲学者になれるってこと。

トラックの荷台が看板に激突

僕は、いつもと同じ道、同じルートを、淡々と走っていた。

時計を見ると、まだ時間に余裕があったから、僕はコンビニに寄って、お弁当を買うことにしたんだ。いつも行くコンビニへ寄ると、その日はなぜか駐車場がガラガラだった。

僕は、入り口に近いスペースに、細心の注意を払いながら、慎重にバックで駐車した。

そして「もうちょっと下がれるかな?」と思ったところで、後ろから「パリパリ」という音が聞こえたんだ。

念のため車からおりて、後ろに回ってみた。

すると、地面に青いプラスチックが散乱していたんだよ。

でも周りにはなにもない。トラックの下も見たけど、なにかを踏んだ形跡もない。

そして僕は、謎のプラスチックのカケラを拾った。すると頭になにか当たったんだ。手にとると、また青いプラスチックだった。そして上を見上げて、謎はすべて解けた。

トラックの箱(荷台)がコンビニの看板にめり込んでいたんだよ。

コンビニの看板は、建物より出っ張ったひさしのようになっているんだ。つまり、ガラス面より1メートルほど出っ張っている。

店のガラスばかり見ていたから、頭のうえがお留守になっていた。

トラックの荷台は、バックすると上の物を破壊する。気をつけろ!

幅寄せするとヤバイ

うちの会社の駐車場は、人に自慢できるくらい広かった。

でも、不況のあおりで、隣の会社に半分を貸すことになった。

その結果、広々とした駐車場に、東西を仕切るブロック塀が築かれてしまった。僕はそのブロック塀に、ありったけの侮蔑を込めて、ベルリンの壁と名付けた。

ある日、僕の2トン車のまえに、ゴキブリのように黒いレクサスが停まっていた。そいつは、僕のトラックの前をふさぐ形でギリギリに駐車していた。

僕は仕方なくハンドルを目一杯きって発進した。すると後ろでゴンという衝突音がした。

┣¨┣¨┣¨という不吉な響きとともに、ブロック塀は脆くも崩れ去った。僕が鋭角に曲がったせいで、トラックの後ろが振れて壁を突き倒してしまったんだよ。

専門用語では「オーバーハング」って言うらしい。気をつけろ!

タイヤのワイヤーがむき出し

僕の2tトラックの荷台には後ろのドアとは別に、横にも小さいドアがついていた。ちょっとした荷物を出すときにはとても便利だ。

そこで僕は、横ドアからおろしやすいように、荷物をぜんぶ片側(ドア側)に積んでいた。

走行中は、ちょっと車体が傾いていた。

でも、運転に支障はまったくなく、それどころか、積み下ろしが劇的にラクになった。

それから一週間くらいしたある日、タイヤがキラキラ光っていることに気がついた。近づいてよく見ると、前輪のタイヤの片方が極端にすり減っていた。光の正体はタイヤゴムのワイヤーの露出だった。

気付かずに走っていたら、いつか確実にパンクしていただろう。

荷物を片側に積むと、タイヤがすり減ってヤバイ。命に関わるぞ。気をつけろ!

ミラー爆発

僕がトラックの運転に慣れてきたころ、ミラーをちょくちょく壁にぶつけていた。トラックの助手席側のミラーは、かなり出っ張っているから、寄せすぎるとぶつかるんだよ。

まぁ、ミラーはぶつけてもカンタンに割れたりはしない。せいぜい支えるアームが曲がるだけだ。気にするな。

ところが、ある日、前方から不敵なトラックが接近してきた。そのころの僕は、いっぱしのトラックマンだったから、減速などという弱みは見せたくなかった。

しかし、敵も一向に避ける気はない。そのままの速度で向かってくる。僕は、むしろアクセルを踏み込みんで立ち向かった。

案の定、敵は失速した。僕の決意に恐れをなして道を譲ったのだ。

「勝った」そう思った、そのとき、ボンッという爆発音が響いた。なんと、助手席のミラーが電柱にぶつかり、粉々に砕け散ったのだ。

減速さえしていればな…。

ミラーの代金、3千円は自分で弁償した。
気をつけろ!

終わりに

…こうして振り返ってみると、あの頃は本当にロクなことがなかった。でも、あらためて思い出し、当時を書くことは、あのときの自分への鎮魂歌(レクイエム)にはなるかもしれない。

どうか、安らかに眠ってほしい。